博打と近代戦争が腕時計の進化を加速させた【連載】

今日、携帯電話が普及し始めてから、30年前後になります。いまや、誰もそれを不思議には思わないでしょう。もともとは、室内に置いて、電話線でつながる固定電話だったはずです。それを外に持ち出せるようになったために形が変化していきました。そして子供の頃に夢見ていたことのある、スマートウォッチまで登場するようになりました。これが、電話機の進化の歴史です。

 

BBC - School Radio - Victorians Audio Clips - Victorian inventions: the telephone

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時計も同じです。かつては、室内に置いて、時を告げていたクロック。やがて、小型化され、外に持ち出せるようになりました。懐中時計の誕生です。当時、懐中時計は、今日の私たちが感じる以上にヒットしました。鎖を服の留め具に引っ掛け、周囲に見せるように身につけていました。おしゃれな着こなしや、多彩なデザインなどの話題が出ていたことなどは、ちょうど今日の携帯電話(スマートフォン)と同じなのかもしれません。

 

序文

時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…

第1回

腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…

(略)

第16回

太陽から離れて、再び太陽に戻った【連載】 - 夜明け前の…

第17回

産業革命と時計業界との関わりが深かった【連載】 - 夜明け前の…

 

 

しかし、懐中時計があまりにも定着したおかげで、逆に、腕時計の誕生は遅れることになります。

 

紳士淑女必携!『懐中時計アルバートチェーンの作り方』 | スチームパンク大百科S

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懐中時計が日本に渡ってきたのは徳川時代のことです。当時鎖国状態にあった日本ですが、わずかな数の時計がオランダ経由で日本にもたらされました。当時の愛用者は大名や旗本たち。明治天皇陛下も金時計のコレクターとして有名だったそうですよ。庶民が懐中時計を手にできるようになったのは大正時代から昭和の始めにかけて。昔は贅沢品だったんですね。

 

Pocket watches: 2015's big trend?

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映画のシャーロック・ホームズの影響もあって、2015年は懐中時計が復活するのでは、とも言われた。

 

 

その誕生は、実は戦場でした。アフリカ最南端で起こったボーア戦争(19世紀末)です。植民地の資源をめぐる争いで、イギリスと地元民(オランダ系移民)との間で戦いが始まりました。戦争は長期化し、激烈を極め、数十万人の命を奪います。このとき、懐中時計を腕に巻き付け、軍の作戦を遂行したとされるのが、腕時計の始まりです。確かに、小型化した懐中時計を腕にしてみると、今日風の大型デザインの腕時計にも見えます。いずれにしても近代戦争とは、火器に依拠し、兵力の適宜配置(計画性)や、機敏な隊列移動(機動力)が何よりも問われました。各部隊が正確な時計を有し、作戦通りに動くことで初めて勝利をつかめるのです。

 

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ボーア戦争が終結を迎える頃、イギリス本国では腕時計の広告も出回るようになりました。腕時計がいよいよ日常生活に溶け込み始めたのです。ちなみに、同時期、時計業界にとって重要なことが始まっていました。競馬です。一種の博打ですから、人々は熱狂し、大金を投じます。こうして資金を得た競馬は、より速い馬、より上手な騎手、より立派な競馬場などを整備するようになります。そして、馬の速さを記録する測定装置にも需要が向かいました。これが後に、クロノグラフ時計を誕生させることになります。

 

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戦争と博打、いずれにしても人々の欲望が、時計の進化にあらたな可能性を加えたのは間違いありません。

 

次回

「クォーツ革命」とは何だったのか【連載】 - 夜明け前の…