リベラル論争の是非とは

 

思ったより、読み応えがありました。小林よしのり氏の漫画ではなく、リベラル・井上氏との対談集。内容は、井上氏の論が、小林氏と噛み合い、リベラルに対する僕の偏見と誤解を見事に解きほぐしてくれました。 本来、リベラルの基本とは、他者に対する寛容さを指すそうです。民主主義を礼賛しているものではなく、平和憲法を擁護する考え方でもありません。ましてや反権力を貫いたり、市民運動を盛んにすることとは、毛ほどの関係もなかったようです。

 

また極めて同意できるのは、何となく治まっているが、実際には何の規定もされていない。こんな危険な状態を放置しているのはよくないという主張です。何のことかと言えば、憲法9条自衛隊のことが規定されていないため、実際の戦力統制規範の根拠は何もありません。またシビリアンコントロールと言いますが、子息を軍隊に差し手していない文民官僚こそ、アメリカで無謀な戦争を推進した一派でした。つまり当事者意識をもつ者こそが、現実の中で、制約をもたねばならないという教えです。 

 

 

 

 

保守を自称する小林氏は、非常に面白い漫画表現で、「サヨク」を叩き、「バカ保守」をも敵に回しています。他方、井上氏はリベラルの旗を掲げ、改憲勢力護憲勢力を皮肉ってきました。日本で、保守やリベラルの姿がムチャクチャになってしまったのは、特定の思想集団の人々がみずからの理念を離れて、現実になびいてしまったからです。たとえば、ナショナリズムをきちんと追及すべき右派が、対米追随のグローバリズムで、みずからの主義主張を放り投げてしまったこと。他方、反米ナショナリズムに傾いた左派は自主防衛なのか何がしたいのか意味不明。 もはや、右左のどちらが「愛国」なのかすら分かりません。

 

『ザ・議論!』井上達夫・小林よしのり著 | プレジデントオンライン

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リベラルとは何か。保守とは何か。そんな問いは意味がないという意見もあります。保守の典型と言われた安倍政権が次々と繰り出すリベラル的政策。もともと「保守が改憲、リベラルが護憲」という誤解が生まれていましたが、ここに来てはさらに、選挙に勝つための左派的政策、選挙に勝ったあとの右派的政策を使い分ける安倍政権が、国政選挙で連勝を重ねるというグチャグチャ状態。もはや、リベラル・保守論争すら馬鹿らしくなります。

 

 

“極右”の安倍政権が左派的政策をとり、共産党が「保守」と呼ばれる訳 | 『週刊ダイヤモンド』特別レポート | ダイヤモンド・オンライン

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では、もう、この左右の議論はムダなのでしょうか。そもそもイデオロギーなどが存在しなくなった左右の違いにすら意味はなさそうです。しかし、敢えて言いたいです。現実的にはまだ解決されていない問題が山積している。それを放置している現状のままでいいわけがない、と。たとえば本書で取り上げられていますが、天皇制の是非。今の天皇は人柄的にも素晴らしい方ですが、人格そのものに依拠してしまうのは制度的に破綻しています。いずれ決着をつけねばならなくなるでしょう。歴史認識も同じ。日本が過去の総決算をしていないからこそ、米中韓とのいさかいが、どうしても観念的なまま続いてしまう。さらに憲法問題は一番厄介です。現実に高すぎるハードルを設定しまっている現状は、永遠に解決しない問題として、ムダな議論ばかりが重ねられています。

 

誤解を恐れず、簡単な表現で示しますが、上記三点(天皇制、歴史認識憲法改正)は、リベラル論争とは無関係です。単に、制度上の不備、法律上の漏れ・抜けなのだと思います。だから必ずそれは補わなければなりません。思想をふりかざして放置しようとするから、いつまで経っても前進しないのです。では本当のリベラルとは何か?本書でも示されていますが、まだ満たされていない少数者の権益を擁護することです。多数決だけで押し切ってしまう民主主義では乱暴に帰すると考えます。社会のあり様を改善し続けていくには、可能な限り、少数者に目をかけることが必要です。不幸な人の数を減らしていく、それが社会の進歩でもあるのです。

 

 

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 最後に、僕の立ち位置もここにメモしておきます。リベラル論争には興味がありません。国家権力はもっと強くなるべきだと思います。ただしそれは、運用の厳格化を大前提とします。死刑制度運用や厳罰化はまさにこれです。他方、夫婦別姓や同性愛など、少数派の声が大きくなってきたなら、選択的な方法でケアを始めるべきです。大多数の力で少数の声を無視し続けていいとは思いません。外国人の受け入れにも寛容です。しかし、移民推進政策ではありません。そしてテロ対策と個人情報保護、その両立は不可欠です。このように、今の「問題」になったことへの解決策として色々手を打ってはいきますが、それは決して理念先行ではなく、バランスを図る措置と対になっておくべきだと考えます。本書の感想として相応しくないかもしれませんが、理念論争ではなく、制度欠陥として対処すべきです。

 

 

asahi.com(朝日新聞社):《朝日・東大調査 候補者の考え》社会 - 2009総選挙

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