産業革命と時計業界との関わりが深かった【連載】

ヨーロッパが激しい社会変革の時代を迎えた19世紀。手工業が各地で広がり、様々な製品が作られるようになりました。その中のひとつが時計です。


その前に登場した18世紀の数々の英傑たちにより、時計の機構は進化し、基本的な構造を確定させていました。その総仕上げとして登場するのが、ブレゲ(1747~1823年)です。彼の業績は、今日でも、天才時計師や近代時計の父という称号で讃えられています。彼は、あまりに多くの革新的な構造を発明したため、いくつもの書籍や雑誌で取り上げられています。ここでは、彼の人生における象徴的なエピソードをご紹介するにとどめておきましょう。

 

アブラアム・ルイ・ブレゲ|世界偉人伝:櫻井心平 : 時計の「必学」雑学 100選 - NAVER まとめ

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アブラアン-ルイ・ブレゲは、1747年1月10日にスイス時計の中心地であるヌーシャテルで生まれた。その後、大半の時間をフランスで過ごし、時計の技術を学ぶ。自動巻機構の開発や時計の販売にも携わるなど意外と多様な人生だ。

ブレゲは、ヨーロッパ王室や裕福な君主のために精巧で複雑な新製品の開発に着手する。フランスは当時革命の機運がかなり高まり危険な状態であったにも関わらず、貴族的な社会との交友や女王・王室とのビジネスを最終的段階まで続けていた。しかし、革命の指導者に命を狙われる身となり、1793年ついにパリを去った。それでも彼は富裕層との接点を重視し、時計の複雑なメカニズムやその芸術性への興味を捨てることはなかった。結局、彼こそが時計に芸術的・工芸的価値を見出し、のちの世に伝えたと言える。

 

 

序文

時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…

第1回

腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…

(略)

第15回

宗教によって、時間観念が生まれ、時計のニーズになった【連載】 - 夜明け前の…

第16回

太陽から離れて、再び太陽に戻った【連載】 - 夜明け前の…

 

 

ブレゲは若い頃、フランスのパリで時計作りを学びます。当時、時計が国王の支持を得ていたこともあり、彼の突出した技術や才能は早い段階から認められていました。やがて、貴族を顧客にしたブレゲ独立時計師として活躍するようになります。しかし、社会の情勢はそれを許しません。革命機運が高まると、貴族の浪費に手を貸していることを批判され、ブレゲ自身の命が狙われるようになります。最後の最後、かろうじてパリを脱出した彼は、スイスでの避難生活を送ります。しかし、急進的革命はわずか数年で頓挫し、ブレゲもパリに戻ってきました。その後、フランスは、ヨーロッパ全体を巻き込む戦争(ナポレオン)の時代へと突入します。ブレゲの時計は軍隊調達の対象品となり、必需品としての性格を強めていきました。

 

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写真は、当時最新の技術を寄せ集めた「マリー・アントワネットの時計」。王妃はこの時計の完成を待たずに処刑されてしまった。この時計はその後、ブレゲの息子により完成された。1827年のことだった。

優れた時計職人であり、発明家でもあったアブラアン・ルイ・ブレゲ(1747~1823年)。得意先にはナポレオンやイギリスのジョージ4世といった著名人が連なる。「ブレゲはスイスとフランスの品質をうまく調和させた男だった」。ブレゲの商売はイギリスやトルコ、ロシアにも拡大し、今日につながる『高級品のグローバリゼーション』の先駆けとなった。

 

話を戻すと、時計師の芸術品として競い合っていた時計が、徐々に市民のものへと変貌していくのが、19世紀です。当時、急成長していたのは、人々が携帯できる懐中時計でした。都市生活をするイギリスのジェントルマンたちの嗜みのひとつであったとも言われています。そして、各地の工場で大量生産されるようになると、値段もどんどん下がり、需要の拡大を後押ししました。ちょうどその頃はナポレオン戦争もあり、ヨーロッパ各国が工業化と軍事化を痛烈に意識していた時代です。時計が、軍事面での必要性を認められると同時に、工業的には時計より他の製品が優先されていたようです。その結果、産業革命で先行していたイギリスでは、当時世界最強だった時計製造が衰退し、時計作りへの特化を進めていたスイスが、一躍、世界の檜舞台に踊り出ることになります。

 

次回

博打と近代戦争が腕時計の進化を加速させた【連載】 - 夜明け前の…