太陽から離れて、再び太陽に戻った【連載】

モノの形には理由があります。飛行機は言うまでもありませんが、飛ぶために必要な形状をしています。人やモノを載せるスペースを確保するために必須の胴体でさえ、軽量化と空気抵抗を抑えるという工夫がなされています。また、翼については、主翼・尾翼ともに研究が続けられ、度重なる改良がなされています。

 

このことは時計でもまったく同じです。時間を素早く、直感的に理解するという点で、追究されてきた形が、今日の時計です。大げさに言えば、何千年の時を経て、ユーザーに支持されてきた形だとも言えるでしょう。さて、そのアナログ時計についてですが、なぜ、今日のような表示方法になったかを考えたことがあるでしょうか。

 

http://www.sciencefestival.jp/sci_kanko_map/wp-content/uploads/2010/06/%E6%97%A5%E6%99%82%E8%A8%88.jpg

函館山日時計:はこだてサイエンス観光マップ】

函館山山頂に到着すると、思ったほど人は少なく、観光客よりも地元の人がのんびりしている姿を多く見かける。さて、この函館山にちょっと面白いものがあります。それが、シチズン製の日時計だ。古代から人間が用いてきたもっとも単純で原始的な時計なのだが、実はそのまま目盛りを読んだだけでは正確な時刻はわからない(写真参照)。なぜか、それは「函館山という場所」と、兵庫県明石市(東経135度の子午線を通る街)を基準とした日本標準時の位置とを考慮して補正しなくてはいけないからだ。

 

そのヒントは、日時計にあります。大昔、人類は太陽の位置や高さを見ながら時間を判断していました。ただ、大空にモノサシ(インデックス)を描くことができないため、地面に棒を立て、その周囲に印を打つことで、今日の時計で言う文字盤に仕立てました。そこを、棒の影が動くわけですから、時刻のアナログ表示とまったく同じです。

 

http://citizen.jp/pr/image/img_hidokei/page_05/shiretoko_miyakozima.jpg

 

 

序文

時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…

第1回

腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…

(略)

第14回

装身具のひとつにすぎなかった腕輪は、腕時計で復活した【連載】 - 夜明け前の…

第15回

宗教によって、時間観念が生まれ、時計のニーズになった【連載】 - 夜明け前の…

 

 【シチズン日時計

実はどこの国でもその国の標準時とその国内のある地点では、標準時とその地点の「視太陽時」との間に時差がある。「視太陽時」とは、その地点から見た太陽の位置を地球の自転軸の方向と水平面を基準に子午線を12時として西回りに15度を1時間として測った時刻のこと。ちなみに、シチズンは、1962年(昭和37年)、東京・上野の国立科学博物館日時計を設置して以降、日本全国に二十数カ所以上設置している。

 

 

しかし、人類の歩みはそのような単純なものではありませんでした。おおよそ1000年余の歴史で、人類が模索したのは異なる表示方式、水時計です。地域によっては砂時計でした。それは、重力を用いて、水や砂などの物体を流動させ、その移動量をもって時を測る仕組みでした。太陽が出ていない雨天や、夜間にも時刻表示が可能になります。政治権力者は、時の支配にこだわりました。水の移動量を測りながら、それをどう表示するかにも工夫が施されました。中国の宋代には、木人形が、時刻を記した板をもって、順番に前に出てきます。それぞれの板には、何時何時と書かれているのです。これは水車の仕組みを用いた、当世風のデジタル表示と言えるかもしれません。

 

「時の記念日」漏刻から最新の電波時計まで:日本の時計の歴史をたどる旅――滋賀県・近江神宮 (1/2) - ITmedia ビジネスオンライン

http://image.itmedia.co.jp/makoto/articles/1006/10/do_toki100610_06.jpg

 

 

matome.naver.jp

 

 

さて、機械式時計の時代を迎えたヨーロッパでは、再び、日時計のような表示方式が脚光を浴びます。直感的に時間を把握できるという点では、やはり優れた方式なのです。その後、分針が誕生し、時針との役割分担がなされるようになりました。もちろん、その背景には、ガリレオが発見した振り子の等時性の法則がありました。時計の精度が飛躍的に向上したのです。こうして、時計としての精度競争が加速する中、それを表示する針がどんどん追加され、今日のように多様な表情をもつまでになっていきました。

 

世界最古の現役時計:The World's Oldest Working Clock|Forbes.com : 時計の「必学」雑学 100選 - NAVER まとめ

http://images.forbes.com/media/2008/02/27/salisbury_cath_clock.jpg

これは、機械式時計の登場以降、初期のものである。まだ文字盤がないことに気付かされる。すなわち、今日、あまりにも当たり前になっている「日時計」のような針と文字盤を用いた表示方式は、さらなる発明を待たなければならなかったのである。人類の歴史で、日時計から始まった文明の歩みが、一時、水時計など他の方向に向かい、そして再び、日時計(の表示方式)に戻ってきたのは、実に興味深いことである。

 

 

次回

産業革命と時計業界との関わりが深かった【連載】 - 夜明け前の…