耐震、防水、耐磁【連載】
第10回:
時計の歴史を振り返ってみると、18~19世紀の欧州では実に多くの時計が製造され、大量に中国などへ輸出していました。北京・故宮にある時計館では、当時の装飾性の高い時計の数々を鑑賞することができます。さて、同時期には懐中時計の量産化も進んでいましたが、こちらは製品として大きな欠陥を抱えていました。それは、耐震装置を備えてなかったことです。懐中時計は携帯するものですから、テンプの真を折ってしまうと、使い物になりません。これが解決を見るのは、耐震装置が開発された1940年代前後のことです。同装置は、「真」の周囲を分割された石で囲み、バネで衝撃力を逃す仕組みになっていました。その後の改良品もすべて同様の構造を有しています。
序文
時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…
第1回
腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…
(省略)
第8回
第9回
時計はメンテナンスによって、何年でも使える【連載】 - 夜明け前の…
20世紀に入ると、新たに大きな課題が登場します。腕時計の普及にともない、必要とされた「防水」需要です。最初の完全防水の時計は、英仏間の海峡を泳いで渡るという鮮烈なデビューを飾りました。それ以降、防水は時計の良さを見極める重要な尺度のひとつになりました。今日、いわゆる日常生活防水と言えば、「30~50m防水」とも言いますが、実際には汗や雨に濡れてもいいくらいの程度です。水泳は、「100m(10気圧)防水」では難しく、「200m(20気圧)防水」が安全でしょう。そして「300m(30気圧)防水」以上で、潜水ができます。防水機能とは気密性を高めることに他ならないので、超高度登山にも使える時計としても注目を集めるようになります。
防水について|時計の知識|操作・機能|修理・サポート|セイコーウオッチ株式会社
21世紀には、もうひとつの課題が急浮上しました。「耐磁」です。その理由は携帯電話の普及でした。もちろん以前から、機械式・クォーツ式時計の双方とも、磁気を発するモノの近くに置いてはいけないと言われてきました。テレビや電子レンジの上部に置くのは厳禁です。イヤホンやスピーカーの傍も危険です。さらに、磁気バックルのついたバッグなどに時計を入れたままにしてもいけません。近年はこれに携帯電話やデジタルカメラ、タブレットパソコンなどが加わり、無意識のうちに接触させてしまうことで磁気を帯び、精度を落としてしまう事例も出てきました。こうやって見ると、私たちの日常生活には、電子製品がかなり増えてしまったようです。そして意外なところでは、衣服のマグネットバックルも時計の天敵になります。対策としては、磁気の発生源から5cm以上も離せば、磁界は弱まります。売り手はお客様に正しい注意喚起をしてあげた方がいいでしょう。
一般の腕時計:非耐磁の時計でも10 cm以上離しておけば、磁気の影響をほとんど受けなくなる。
1種耐磁時計(耐磁時計):日常生活において,磁界を発生する機器に耐磁時計を5 cmまで近づけてもほとんどの場合に性能を維持できる水準。
2種耐磁時計(強化耐磁時計):日常生活において,磁界を発生する機器に耐磁時計を1 cmまで近づけてもほとんどの場合に性能を維持できる水準。
近年は、「耐磁時計」の登場により、一層、この磁力対策が注目されるようになった。携帯電話をはじめ、身近にモバイル機器が増えたことも影響している。
次回
ムーブメントを語れれば、時計の「ツー」だ(1)【連載】 - 夜明け前の…