知られざる時計業界の変遷【連載】

第2回:

スイス製時計の代名詞:機械式時計。その製造は、長らく、職人的な精密作業でした。特に、時計の駆動を担うムーブメントの製造は大変です。なぜなら、部品個体にはそれぞれが有するバラつきがあるため、組み合わせてからの再調整が必要になるのです。時計とは、完成品の中では圧倒的に小さく、高精度を要していた点で、まさに職人頼りの製品でした。スイスでは、専門性の高い工房が、そうした厄介な部品に対して、技術の継承や道具の研鑽を繰り返し、適者生存の歴史を続けていました。

 

 

www.nhk.or.jp

 

http://www.golfdigest.co.jp/golfstyle/style-gold/series5/070719/img/main.jpg

 

 

序文: 

時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…

 

第1回:

腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…

 

 

しかし、時計製造の発祥地はスイスではありません。また、条件的には、むしろ他の国の方が良かったはずです。たとえば、金属材料を用いた機械式の時計製造は、ドイツで始まったとされています。後背地に豊かな資源を抱えていたからです。その後、隣国のフランスでは多くの時計師が登場しました。当時の時計は王侯貴族が最大顧客であり、絶対王政の全盛期だったフランス宮廷が大市場になったからです。しかし、宗教改革(16世紀)などの大混乱から、人材が周辺国に流出。避難先は主にイギリスとスイスでした。そしてイギリスは、安定した社会と蓄積した資本を背景に、18世紀から19世紀にかけて、世界最大の時計製造国へとのし上がります。さらに、20世紀になると、量産ノウハウを身につけたアメリカが台頭してきました。同時に、アメリカは、鉄道の普及と相まって、世界最大の時計消費国にもなっていました。しかし、蓋を開けてみれば、二度の大戦をはさみ、数量を伸ばしたのはスイスだったのです。中立国であったのが幸いしたようです。そして戦後になると、革新的なクォーツ式時計が発明されます。そこで覇権を奪ったのは日本でした。

 

matome.naver.jp

 

matome.naver.jp

 

matome.naver.jp

 

matome.naver.jp

 

matome.naver.jp

 

matome.naver.jp

 

 

このような変遷の中、クォーツにより一時壊滅的打撃を被ったスイスは、奇跡的な復活を遂げます。そのキーワードは、業界再編と高級路線でした。従来、散在していた多くの時計事業者は、資本の力で再編されます。これにより、時計の技術革新をかけた戦略的投資の決断がやりやすくなりました。また同時に、装身具(アクセサリー)としての時計の魅力を活かす方向に舵を切りました。ファッション性満点の「スォッチ」ブランドなどは、こうして誕生したのです。すなわち、私たちに憧れを抱かせる時計の「スイス信仰」とは、実は、ここ数十年の新しい戦略が実った結果だったのです。これにより、工業製品である時計は、高級工芸品となる道を得ました。また、クォーツ式時計に追いやられそうだった機械式時計に、復活の光が差し始めました。時計は「やっぱりスイスか」という前回記事の問いにはこう答えるのがベストでしょうか。時計業界に誇りと活況をもたらしてくれたのは間違いなくスイスである、と。

 

blog.dreamchrono.com

スイス時計業界が、クォーツショックに苦しむ中、最初にその立て直しに動いたのが、今日のSwatchグループである。仕掛けたのは、故ハイエック氏(Nicolas Hayek )だ。

 

次回

時計の買い方【連載】 - 夜明け前の…