健診を受けることの意味を考えておきましょう

四訂版 病院で受ける検査がわかる本

四訂版 病院で受ける検査がわかる本

 

 

人間ドックを受診する人の数は決して多くありません。その原因の一つに、「万一深刻な結果が出たらどうしよう」という不安があるはずです。本当のニーズとは、早期発見とは表面的な理由ではなく、実際には安心させてほしいというものだからです。では、もし悪い数値が出た場合、どうすればいいか。まずは慌てないことです。「検査で要注意と判定される数値と、医師が診断に使う数値はそもそも違って」います。また基準値も、統計的に95%を正常とした数値です。100%ではありません。さらに言えば、他の数値とも合わせて判断しなければなりません。ややこしいですね。下記リンクでは、末尾に面白い紹介がなされています。1000人が「がん健診」を受けて、70人から陽性反応が出ました。そして内視鏡検査をやってみると1~2人にがんが見つかります。また、陰性反応だった930人の中にも、1人くらいはがん患者が見つかるのだとか。健診・検診の難しさが表れていますね。

 

president.jp

 

 

こちらには、冒頭書の検診内容が転記されています。非常に便利です。検査は膨大な数にのぼります。

gooday.nikkei.co.jp

  • 頭痛
  • 胸痛(緊急性)
  • 腹痛(上部・下部)
  • 腰痛
  • 関節痛
  • 発熱
  • 動悸(心臓か否か)
  • 息切れ
  • めまい
  • ふるえ
  • しびれ
  • 吐血(消化器系)、喀血(呼吸系)
  • 嘔吐
  • 便(下痢、便秘)
  • 尿
  • 腫れ
  • 浮腫(むくみ)
  • 肥満
  • 痩せ
  • 性器(不正な出血)

 

検査には二種類あるそうです。健康な時に受けるから「健診」、特定部位や病気を疑って検査をするから「検診」。様々な健診にはいずれも、基準と数値が用いられます。たとえば「γ-GTP」では、下記の二人の数字が大きく異なります。同数字は、アルコール性肝障害の指標です。もし障害が起こると、幹細胞に存在する同酵素が血液にあふれ出てきます。ゆえに数値が一気に変わります。基準値は「79」だと言いますが、健康な方は「25」、異常な方は「511」にもなりえます(下記事例)。したがって異常な方には再度の精密検査が必要になりますが、この数字は他の指標と合わせて見ることで、再検査方法を特定していくことができます。

 

http://gooday.nikkei.co.jp/images/inspection/p206_01.jpg

 

 

健診や人間ドック、賢い受け方は…専門家に聞く : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)

https://image.yomidr.yomiuri.co.jp/wp-content/uploads/yomidr/image/20150909_sin_03_450.jpg

 

健康診断(人間ドック)に対しては疑問を呈する意見もあります。最大の理由は、健診技術がまだまだ未熟なことです。米国では面白い提言がなされています。「日常的に行われているが、患者に意義ある恩恵をもたらしていない検査や治療」が490項目にも及ぶというのです。 また、検査を重ねると、体に対して多少なりとも負担があります。これらを総合的に勘案すると、毎年の健診には疑問を感じます。むしろ、健診よりも、日々「体にいいこと」を実施してもらえるよう促すことの方が役に立つのかもしれません。

 

「健康診断は毎年受けなくてはいけない」はウソだった | 文春オンライン

たとえば治療では、「風邪やインフルエンザに対する抗生物質」「75歳以上のコレステロール低下薬」「高齢者の不眠や不安に対する睡眠薬」などの項目が、患者にあまり恩恵をもたらしていない治療としてリストアップされています。また、検査では「骨密度の検査」「腰痛に対する画像診断」「PSA(前立腺がん)検診」などが、過剰に行われていると指摘されています。

 

議論が分かれる問題には、往々にして「条件の設定」という課題があります。検診技術の精度を見ながら、受けるべき検査と受けても意味がない検査、この二つに選別することが正解を導くポイントです。どのような人が何の検査を受けるべきか。それをある教授はこのように言います:「60歳ごろまでの健康な人は、原則この5項目(喫煙と飲酒の量、血圧、血糖値、血中脂質)を調べればいい」。人間ドックになると少々複雑です。検査の副作用も考えられることから、一般には、必要最小限で選択していくのが望ましいようです。自分の体の状態に日頃から意識を向けておくことが重要ですね。

 

全世代が受診 健診、項目増えると安心?|ヘルスUP|NIKKEI STYLE

https://article-image-ix.nikkei.com/https://imgix-proxy.n8s.jp/content/pic/20150722/96958A99889DEAEBE6E6EAE7E0E2E3E5E2E5E0E2E3E7868883E2E2E3-DSXKZO8944854017072015TZQ001-PN1-10.jpg?auto=format,compress&ch=Width,DPR&ixlib=php-1.1.0&w=450&s=6ec61ff24979a6b547e1ea968ef1fbc9

 

ここからは非常に興味深い議論をご紹介します。「近藤誠氏 VS 医学界」です。近藤氏は『患者よ、がんと闘うな』という著書があり、がんの放置療法で既存の医学批判を続けています。近藤氏の主張はまともなように感じますが、言い方の問題でしょうか、その批判は全面対決の場外乱闘になっています。困るのは患者や読者の皆さんですね。近藤氏にやや分が悪いのは、ビジネス関係者もすべて敵に回してしまうことです。医療は常に発展途上のものなのだから、何事も絶対視せず、間違っていれば修正し、間違えていたことの罪は問わないとすべきです。

 

business.nikkeibp.co.jp

 

そんな近藤氏に言わせたら、今の「がん治療」は百害あって一利なし。それゆえに「がん検診」もまた無意味となります。世間の間違った認識、それは、「がん」を放置してしまえば、「みるみる大きくなって全身に転移して、ひどい痛みに苦しみながら、死に至る」というイメージです。しかし実際には、治療せずに寿命を伸ばしている事例が多い、と同氏は言います。抗がん剤は効かないし、がんを切る必要もない、そもそも痛いとか苦しいとかの自覚症状がないのだから、わざわざ見つけるべきではない。それが近藤理論の核心部分です。その理由は、がんの大半が「がんもどき」で転移しないのだとか。逆に、本物のがんは見つかった時にはすでに手遅れ。この理論は間接的に実証できていて、患者の発見数が増加しても死亡数が横ばいなことです。つまり、発見できたのは「がんもどき」の方だったのです。

 

president.jp

 

もちろん、この近藤理論には多数の反論があります。すでに20年以上、近藤氏はみずからの信念を言葉にして発信し続けていますが、ロジックが強引だったり、数値の解釈がご都合主義だったりという指摘も受けています。また、「がんもどき」なる表現は近藤氏の造語で、結果的に転移していなければ「がんもどき」なのです。しかし、今の科学で、がんの転移可能性を見分けることが難しいとされ、治療すべきか否かの判断が分かれます。それゆえに、いっそのこと放置してしまえと唱えているのが近藤氏です。こんな曖昧な理論なら、「死を覚悟し、穏やかに残りの人生を生きよう」、そう言われた方がマシなのかもしれません。がん患者が治療の希望をもって戦うことを、人生の意義と見るかムダと見るか、そこでも個々の死生観が表れるような気がします。

 

まぁ、私自身、しばらくは検診の意義を、自分の健康への関心と置き換え、勉強し続けていきたいと思います。