当事者では変えられない、事業再生の課題

ジャッジメントイノベーションJUDGMENT INNOVATION

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四年間活動した「産業再生機構」は、全部で41件を扱ったそうです。事例を聞けば、思ったより多くて、カネボウダイエースカイネット(アジア航空)・大京、私が思い出すのはここまでですが、その他にも、九州産業交通ミサワホーム三井鉱山・鬼怒川グランドホテル・マツヤデンキ・アビバジャパン等。この機構とは「銀行から不良債権を買い取り、借り手企業の経営再建を支援する」プロフェッショナル集団です。特別な法律に基づいて作られた特殊会社ですが、政府主導にしては珍しく、成功したモデルだと個人的には感じています。何より、国民の追加負担が発生せずにすんだからです。

 

【経済早わかり「産業再生機構とは」|経済産業研究所RIETI】

https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/kobayashi/data/06_figure_1.gif

 

 

この産業再生機構の仕事に関わったプロのお二人が書いた、渾身の日本企業改革案、それが本書です。その冒頭ではこんなことが書かれていました。「日本企業には、経営陣に対する健全なプレッシャーが不足している」と。言い訳ばかりで、成長ドライブに臆病な経営者は言い訳ばかりを口にして、超安全運転を続けています。また日本では「物言う株主」が悪く書かれてしまう始末。ゆえに「低収益でもやむなし」という風潮が強まってしまい、企業には現金がたまっていくという不思議な構図が出現しています。国も経済の混乱を恐れ、「中小企業金融円滑化法」を成立させ、過保護な行政が続いています。しかしその結果、日本企業はグローバル化どころではなくなり、市場環境の中でのポジションは悪化するばかりです。

 

ちょっと本書を離れますが、同機構の代表取締役専務を務めた「冨山和彦氏」はまさに時の人となりました。そんな彼の講演録を参照してみましょう。そもそも企業再生が必要になった会社は、往々にした過剰な債務に苦しんでいました。そんな状態では人材も集まらず、設備投資も許されない、ゆえに状況はどんどん悪化していくのです。問題の根は、なぜそんな状態になるまで放置されてきたかということ。これはひとえに経営者の問題です。「止められない」「断れない」「変えられない」とズルズルいってしまったのは、然るべき決断ができなかったことを意味します。冨山氏曰く、情理と合理を高い次元で一致させる経営こそ、簡単でかつ高度な決断を要するもののようです。何しろ、売上が減ればその分費用を下げるしかない、冷徹さが絶対です。ただ同時に、売上を伸ばすには人を激励できる人間性も欠かせません。カネボウが繊維事業から撤退するという冷徹な決断、化粧品を革新的に伸ばすという強力な後押し、いずれを取っても、破綻当時のカネボウ経営陣ではやりきれていませんでした。 

 

経営共創基盤CEO・冨山和彦氏―再生の修羅場から見えてくる日本の課題 | GLOBIS 知見録

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話を本書に戻します。カネボウがなぜ粉飾をしたのか。それは、繊維事業を切られたくなかったからです。なぜ化粧品事業をいち早く切り離したのか。それは、事業価値のつられ毀損が始まっていたからです。しかし、ここで問題になるのは残された事業です。数字を使っての取捨選択が検討され、資本の調達コストと総資産利益率の比較、そしてDCFベースでの事業価値と清算価値との比較。まずは数字で現状をはっきりと表現しながら、その次を決定します。「その次」とは主に、経営体制の刷新と余剰人員の削減です。

 

産業再生機構は成功だったのか。その総括報告としては「大成功」と評されています(『産業再生機構の実績と事業再生の課題』)。特に、同機構が第三者として、銀行間の複雑な権利調整を行ったり、金融機関の抱える支援対象企業の不良債権を正常債権としたり、銀行等の評価が一変してから、支援案件が増えることになりました。金融支援や事業再編は、なかなか当事者でできるものではありません。ゆえに、同機構の成功実績が多かったのも、うなずけます。しかし、悪く言えば、「よくなりそうな案件」を優先的に扱っただけにすぎないとか、スポンサー企業への譲渡が目的で必ずしも事業再生には至っていないとか、一定の指摘も存在していました。同機構が解散した後、その受け皿となる「企業再生支援協議会」「株式会社地域力再生機構」そして「産業革新機構」などがそれぞれ設立され、今日に至ります。

 

簡単に言えば、日本にはたくさんの金脈があります。経営さえ刷新されば、すごくなる企業がまだまだわんさかある、それが日本のあらたな金脈だと思うのです。公的な支援は素晴らしいですが、そのノウハウを積み上げ、より多くの人に享受してもらうことこそ大切だと感じますね。つぶれそうな企業は、経営者の交代で、刷新すべきなのです。