ベイズ原理を理解するために(原発事故の発生確率)

『数学の言葉で世界を見たら』 付録 - Caltech Hirosi Ooguri

 

新しい情報が得られたら、それを使って確率を修正していく。これによって不確定性を減らすことができる。これこそまさに「経験に学ぶ」ということです。リスクとは原発を続けることにばかりあるのではなく、化石燃料の枯渇や地球の環境保全とも関係していく問題です。そのためにも、様々なリクスを比較判断することが必要です。

 

 

東京電力の見解では、炉心損傷という重大事故が起こる確率は一基あたり一千万年に一回と見積もられていました。しかし、50基ある日本で、わずか50年の間にこれが起こってしまいました。これを総じて、「1500基*年」稼働してきたとしましょう。すると、「0.0015%」の確率で事故が起きたことになります。仮に、反原発の人たちが100年に一度は事故が起きてしまうとすると、ここまでで50年。つまり、今回の事故は「50%」の確率とされたわけです。もしも、多くの人(=99%)が東電の科学的な推計を信じていたとしたら、日本全体の知見の下での今回の事故は「一万年に一回」と見積もられていたことになります。

 

P(事故)=0.99*0.00015+0.01*0.5=0.0051485

  • 99%:東電を信じた人
  • 1%:東電を信じなかった人(反原発の人たち)
  • 0.0015%:東電の推計下で起こってしまった事故の確率
  • 50%:反原発の人たちの心配の下で起こってしまった事故の確率

 

しかし、事故が起こってしまった以上、この確率は見直さなければなりません。そこでベイズ定理の出番です。東電の推計と人々の信頼度で得られた数字(=0.99*0.00015)を、今回の数字「一万年に一回の事故」(=0.0051)で除します。これによって得られる結果は「0.03」、すなわち東電の推計を信じた人99%が事故後にはわずかに3%へと減ってしまったのです。あらためてこれを計算すると、50年の時点で0.5回の発生確率、すなわち反原発の人たちが言う100年に1回となってしまいます。

 

P(事故→東電)=0.99*0.00015/0.005

P(事故→事故)=0.03*0.00015+0.97*0.5=0.5

 

実際、事故を起こした東電の発表は、事故発生確率を修正しています。福島第一原発にて炉心が再損傷を起こす確率は5000年に一回です。日本には原発が50基ありますので、数百年に一回という、上記の計算結果に近づいてくるわけです。ちなみに、上記の計算は、「一万年に一回の事故」(=0.0051)で除しました。なぜ、この数字で除すのでしょうか。それを解説しておきます。

 

10-1. 条件付き確率とは | 統計学の時間 | 統計WEB

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上記の問題は、「この袋から一つ出した玉が『1』である確率」を求めることになっています。ここでユニークなのは、この玉がすでに赤だと分かっていることです。この袋には、6個の玉が入れられ、そのうち『1』の赤玉が2個入っています。すなわち「1/3」の確率で出てくるはずなのです。ところが、赤玉が出てきたとあらかじめ分かっているので、赤玉の出てくる確率「1/2」は実現済みです。未来の確率条件が加わる場合は掛け算ですが、確定している確率なら割り算で構いません。したがって、「1/3」を「1/2」で除す、言い換えると分母を減らして(玉6個→赤玉3個)考えることができるというわけです。確率で除するとは、分母を減らすという意味で理解しておきましょう。