汚れに対処すること、それが現代人の進化の証です

 

私たちが嫌いな「汚れ」。その正体は何でしょうか。そしてなぜ私たちは汚れを嫌うのか。人類が汚れに対処するようになったのははるか昔のことですが、実際に石鹸の使用が始まったとされるのが、古代メソポタミア・エジプト・ローマなどの時代です。不思議なのは、いつ、どのようにして、汚れを落とす原理に気づいたか、です。体が汚れてくれば、細菌が増殖するようになります。衣服を身につけるようになれば、その汚れに悩まされることにもなります。匂い、痒みが出て、「不快」になると水浴びをしたりもしたのでしょうが、そこまでは他の動物と同じです。人間はさらに進化し、エジプトの壁画には洗濯の動作が描かれるようにまでなりました。パピルスにもその記録が残されており、「天然ソーダに動植物の脂肪を加えて加熱する方法」だったそうです。

(参照:https://www.i-kahaku.jp/magazine/backnumber/49/04.html

 

日本石鹸洗剤工業会 石けん洗剤知識 洗濯

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汚れとは、食べカスや化粧品など、外からくるものばかりではありません。体の分泌物も汚れとして扱われます。体の垢は、排出された皮膚のことです。汗、爪、髪、歯垢も汚れで、放置すれば細菌が増殖してしまいます。これら汚れを大別すると、水溶性か、脂溶性かで、対処方法も異なります。 洗濯の基本は、水で落とすこと。水溶性の汚れであれば、汚れが水に吸着されて流されていくのです。しかしたとえば、水溶性でも「醤油」のようなものは黄色いシミを残してしまいます。それが有機物(糖分、油脂、アミノ酸)で、石鹸や洗剤を必要とします。

 

 

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日本で石鹸が本格導入されるのは、明治以降です。戦国時代には伝来していたとされる石鹸も、江戸時代を通して定着することはなかったようです。食生活に油分を使うことのない日常生活では、水のみの洗浄で十分でした。油汚れがあった時だけ、「灰」を使っていました。灰汁(アク)はアルカリ性ですから、タンパク質などを分解する力があります。灰汁はそもそも最古の洗剤として外国でも記録にあり、旧約聖書にも記載されていました。また、当時は、特定の植物の実を煮詰めて、洗剤用途に使う工夫も発見されていました。サポニンを多く含む大豆などは、煮立てると細かい泡が立ってきますが、これが界面活性をする成分として注目を集めたのです。

 

石鹸や洗剤がなかったころの洗浄剤 - 石鹸百科

お米やダイコン、大豆などを煮ると、細かい泡が立って、よく吹きこぼれるれることがありますが、それはサポニンが溶け出しているからで、油で汚れた食器類をゆで汁に浸けておくと、洗剤を使わなくても汚れがよく落ちます。また、界面活性作用は石鹸に比べるとかなり弱いのですが、世界には今日でもサポニンを多く含む植物を石鹸代わり利用する民族が多く存在します。 

 

 

水や界面活性剤を用いる他に、多孔質の吸着媒を使ったり、有機溶剤で汚れを溶け込ましたり、その原理は基本的に同じです。水溶性、脂溶性という他に、酸性、塩基性という概念も重要です。なぜなら酸性の汚れには塩基性の洗剤を、塩基性の汚れには酸性の洗剤で対処しなければならないからです。たとえば、キッチン・衣服・カラダの汚れは酸性なので、塩基性の洗剤で対処します。逆に水垢・ヤニなどの塩基性の汚れには、酸性の洗剤です。前者には重曹(炭酸水素ナトリウム)が、後者にはクエン酸が、洗剤として用いられたりします。

 

1.重曹って何だろう? クエン酸って何だろう? | 重曹・クエン酸で地球に優しいお掃除はじめませんか? | 木曽路物産株式会社

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 服の汚れに関しても、界面活性剤を使いますが、今日の洗剤はこれにとどまりません。酵素や漂白剤など、技術開発の進歩は、汚れの種類や洗う対象(衣料)によってどんどん変化していくのです。

 

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最後に、水垢やぬめりの汚れに対して。水垢の正体は、マグネシウムあるいはカルシウム化合物です。この場合の洗剤は酸性となります。ステンレスの錆びも同様です。鉄製品を置きっぱなしにした時などに「もらい錆び」が生じます。これも酸性洗剤を用います。他方、シンクのぬめりは、菌の繁殖です。このぬめりは排水溝の詰まりにもなってしまいます。ここへの対処には、重曹クエン酸の双方を用います。まず重曹(アルカリ洗剤)をかけて、ぬめり(油分)の酸性を中和します。浮いてきた油を取るために、ブラシなどでこすります。重曹を奥の奥まで浸透させたら、クエン酸をかけます。重曹と酸が反応すると泡立ってきますので、数十分置いてから水で流します。このように、汚れに合わせて、洗剤にもそれぞれ対応する役割があり、最後には浮き上がった汚れそのものを取り去るというステップが、大半の洗剤に共通していることです。

 

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実際、汚れは、油分がこびりついてしまい、取りにくくなってしまうので、日頃からその汚れをためないという商品も出回るようになっています。人類と汚れとの闘いとは、すなわち人類の化学に対する進歩の歩みでもあったわけです。