民間療法の是非を問う。科学的な視点を導入しながら

民間療法のウソとホント (文春新書)

民間療法のウソとホント (文春新書)

 

 

科学的であるか否か。今日では非常に大切なテーマです。ところが「民間療法」とはその過程を経ていません。いわば自由な領域で、勝手な評価を行っています。特に、健康雑誌が繰り広げるのは、読者の興味を引くセンセーショナルなタイトルです。この編集上の工夫が、広告という利害と結びつくと、事実そっちのけの記事が作られることになります。しかもそこは「体験談」のオンパレード。実名・仮名・作り話等何でもありです。そこにいわゆる「御用学者」が加わると、もっともらしい記事が完成します。ある老練の雑誌編集長がこう揶揄したそうです。「健康雑誌は、お年寄りの『少年ジャンプ』だね」と。お年寄りの夢と希望を載せた雑誌。そう考えると、ガセネタでも意義があるように感じてくるものです。

 

 

www.narinari.com

asahi.com:「あるある大事典」の納豆ダイエットで捏造 関西テレビ - テレビ・ラジオ - 文化・芸能

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こんなことは雑誌だけではありません。 「発掘! あるある大辞典」という大ヒット番組では、納豆ダイエットが紹介されました。案の定、ブームに火が点いたわけですが、番組には架空の数字や無関係の写真などが登場してしまいました。これは演出をはるかに越えて、捏造でした。これにより納豆のダイエット効果が疑われ、番組がこれまでに放送した内容もすべて捏造だとやじられる始末。冷静に考えれば、「起こるべくして起きた事件」でした。

 

「健康食品」の安全性・有効性情報

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とりわけひどいのが「健康食品」です。健康の維持と促進に役立つと言われながら、その効果は確認されていないものが多々あります。最近では、コエンザイムQ10やコンドロイチン、αーリボ酸など、医薬品と同じ名称の材料を入れた健康食品も登場しています。そこで利用者の中には、「薬は副作用があって怖いけど、健康食品なら安心」とか、「健康食品なら、病院の処方箋も必要なくて便利」とか、誤解をしている人もいます。ところがこれは誤りです。たとえば、かつて医薬品だった(主に、心不全の治療薬)コエンザイムQ10。医薬品であれば、成分量や他の成分との組合せ、さらに使用者の体質・状況に応じて処方されるはずです。健康食品にはその過程がありません。しかも、医薬品は、どこの製薬会社で作っても同じ品質で製造され、激しい臨床試験も行われています。それゆえに医薬品は、その効能や効果を表示することができるのです。

 

特集2 健康食品にご用心 効果が感じられないときは中止を – 全日本民医連

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そもそも、日本でサプリメントなどの健康食品について規制緩和がなされたのは、米国の圧力だと言われています。2000年代に入り、次々と聞き慣れなかった成分が登場し、一大ブームを起こしました。もちろん、コエンザイムQ10はそのひとつです。食品が効能・効果をうたうことは、医薬品医療機器等法(旧・薬事法)に基づいて禁止されていましたが、機能表示が認められたトクホ(特定保健用食品)と栄養機能食品は例外になりました。これもまた米国の市場拡大事例が参照されています。

 

gendai.ismedia.jp

「日本で販売するサプリや健食は機能性を表示できないため、消費者がその効果を正確に理解しないまま飲んでいたり、適切な量を服用できていなかったりしています。機能性を示さないまま放置しておくのは消費者保護の観点から見てもよくない。何のために飲むのかをはっきり表示したほうがいいでしょう」

 

「書かせない規制」から「書かせる規制」への移行:簡単に言えば、書かせることでより重い責任をもたせるという主旨です。また、機能を表現できないまま健康食品が広まってしまうのは逆にマイナスでした。そこで登場したのが「特定保健用食品(トクホ)」でした。1991年に栄養改善法で法制化され、その後2001年には、国の審査・許可が不要な栄養機能食品制度が創設されました。そして2015年、ついにすべての食品に対して、(1)国が定めるルール(食品表示法の食品表示基準)に基づき、(2)企業の自己責任で食品の安全性・機能性に関する科学的根拠などの必要事項を、(3)販売予定の60日前までに消費者庁長官に届け出れば、(4)トクホ並みの機能性表示ができる「機能性表示食品」がスタートするに至りました。これはかなり大胆な規制緩和で、米国のダイエタリーサプリメントの表示制度を参考にしたと言います。米国制度の改良版とされていますが、科学的根拠のない商品が流通するリスクは避けられないでしょう。

 

biz-journal.jp

さて冒頭書の「民間療法」の話に戻します。たとえば花粉症は、命に別状のない軽い病なので、わりと民間療法が採用されやすいものです。甜茶はそのひとつです。その他、鼻スチーム療法、鼻内洗浄、クロレラ、ハリ、花粉グミ、シジュウム茶、灸、ツボ、情動水、シジュウム入浴剤、波動水、スギの葉エキスなど 、本当のところその効果がよく分からないようです。とは言え、病院に行って処方してもらった薬で100%解決しているわけではありません。民間療法がこれに応えようとしているのは重要です。先人が伝承してきた知恵とは、今日の私たちが検証しながら試しに使ってみるものだと思います。