決算書が操作されているのは、「罪」に問えるのか

 

粉飾(不正会計)には二つあります。ひとつは利益を多く見せること、もうひとつは利益を少なく見せること。前者は株主や金融機関に対して良い印象をもってもらうため、後者は納税額を下げるためです。中には悪質なものもあって、「不正」を指示した人間を利するために、これらの操作を行ってしまうこと。それにしても、この「不正」は簡単にできてしまうのだそうです。カネボウに至っては、粉飾決算を20年以上も続けられたわけですから。

 

会社の利益を操作する「粉飾」と「逆粉飾」の概要 | 富裕層向け資産防衛メディア | 幻冬舎ゴールドオンライン

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粉飾する方法は冒頭で示した二つですが、手段は三つです。

  • 売上を水増しする:売上の裏付けとなる書類を偽造すればいい。
  • 経費を隠蔽する:仕入れ先が限られるため意外と難しい。
  • 在庫を増減する:取引先とは関係なく操作できるので簡単。

 

 

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東芝の不正会計が発覚:利益の水増し額は合計で2306億円にのぼりました。焦点になっているのがパソコン事業の「バイ・セル取引」です。東芝はパソコンの組み立てを、台湾などの組み立てメーカーに委託していましたが、この取引は「部品の有償支給」と呼ばれ、自動車会社なども導入している一般的なものです。液晶や半導体などの部品を東芝が安く調達し、組み立てメーカーに再販、そして完成品を東芝が買い戻していました。この部品価格が調達時の4~8倍に達し、会計期末の月に必要以上の量を押し込むことで、一時的に利益をかさ上げしていました。

 

 

 それにしても、このような操作がすべて不正になるわけではありません。利益を少なくして税を逃れる場合、合法的に社員の給料を上げてしまえば、いとも簡単に利益操作ができてしまいます。わざと「赤字企業」にすることで節税でき、税務署の調査を受けにくくなります。現在、国税庁の職員は5万人、企業調査を担当しているのは1万人、一人あたり1,000社もの企業を相手にしているので、調査官は企業を絞って調査をしています。しかも主には脱税している(利益を少なく操作している)会社が対象ですが、追徴課税という収入が狙えます。一社あたりだいたい一週間かかりますから、年間で多くても50社くらいしかできません。

 

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税務署の調査は基本的には事前通知を行います。ゆえに、対象企業が準備してくるものを調査官は疑ってかかります。狙いは「原始記録」です。調査官はその確認をするために、「注文はどういう形で入ってくるのですか」などと、商売のプロセスを丹念にたどります。通常、取引のすべてを暗記しているとは思えないので、必ずどこかに記録があり、国税調査官はそれを探します。そもそも脱税者とは往々にして、裏帳簿を作成する習慣があります。法を犯してでもお金を貯めたいという執着があるでしょうし、それに加担している複数の人たちがネコババしていないことを相互に監視する意味もあるからです。調査官が目指すのはこの裏帳簿です。

 

 

【見ごたえアリ!】映画『マルサの女』宮本信子と山崎努ほか出演者が秀逸すぎる - Middle Edge(ミドルエッジ)

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脱税摘発を描いた『マルサの女』は名作中の名作だと思います。とにかくカネがあまり余ってグルグル回っていたバブル末期、かろうじて増えた庶民の所得がどんどん消えていく現実があり、豊かさを実感できない時代でした。それは悪徳事業者も同様ですが、彼らは脱税を含めた悪質なビジネスで暴利を貪うとしていました。ここに立ち向かったのが、本来は嫌われ役の国税調査官たちです。同映画は勧善懲悪の方程式にはまり大ヒットしました。

 

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本書によると、 脱税や粉飾には必ず動機があるようです。しかもそれは計画的なものではなく、突発的なものが多いと言います。逆に言えば、十分な準備期間がないので、至るところに矛盾が漏れ出てしまうことのようです。また、売上・利益・販管費の推移を丹念に見比べれば、違和感を覚える数字が見えてくるのだとか。少し意外だったのは、株主構成。これで、脱税や粉飾の動機を憶測することができます。そして最近ではネットの情報にも着目するのだそうてす。評判の良いお店は業績が良くなると、経営者の口も滑らかになるようで、それがテレビやネットに流れることがあります。調査官はこれをチェックして、実際の帳簿と見比べます。こうした事例を聞いていると、決算書の操作は結構簡単にできるのだと思い知らされますね。

 

最後に決算書の不正について下記に引用しておきます。「2008年から7年にわたり、総額1500億円を超える不正会計」を行った東芝の問題。果たして課徴金処分から刑事罰へ行き着くのかどうか。そこには大きな違いがあるようです。

 

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 ライブドアが粉飾したとされた額は53億円で、今回の東芝とは桁違いに少ない。ライブドア株上場廃止となり、当時の役員が、証券取引法違反有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕された。そもそも、粉飾決算という言葉に明確な定義はないが、一つの基準として、金融商品取引法上の『重要事実の虚偽記載』に当たる。これを刑事事件として立件するには、そのような『重要事実』の『虚偽記載』について故意、つまり“わざと”やったと証明することが必要になる。また、(今回の詳細を調べていくと)投資判断にどの程度影響したかは、微妙なところ。つまり、ライブドアのように、完全な赤字決算であったところを、前年比300%増の黒字と記載したわけではない。しかもライブドアは当時、自社株の株式交換による企業買収を繰り返していましたが、株価維持や吊り上げに対する強い動機がありました。よって、故意を認定するのは比較的容易だった。