嘘がはびこる中国経済について、冷静に語ってもらおう

 

外から眺める中国経済の、根拠たるものは、主に政府が発表する統計になります。ところが中国の場合、その信頼性が低いままです。たとえば各種統計間で整合性のとれないことが多発しています。サービス部門の付加価値額の伸びが、雇用統計の伸びをはるかに越えている点です。また、地方政府が発表するGDPを足し合わせると、中央政府の数字と合わないなどという滑稽なことも起こっています。前者は技術的な問題やヤミ経済の存在のせいだと言われ、後者は地方役人による水増しだろうと思われます。一番確実なのは、軍事気象衛星から撮影された夜間の光強度を測ることなのかもしれません。都市部の拡大、人口分布の推計、エネルギー消費量などが、時間軸を追って見ていくと、経済指標とかなりの相関関係が知られているからです。実際にそれを研究し、中国経済の研究に応用している学者グループも存在しています。

 

衛星リモートセンシング技術を利用した人間活動の”監視” | SciencePortal China

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中国経済でまず最初に挙げられるのは、金融政策のリスクへの懸念です。世界経済との取引量が年々巨大になっている中で、万一にも中国経済が変調し、信用リスクが生じてしまっては大変なことになります。特に、為替政策が非常に硬直なため、過剰債務を起点とするデフレ圧力は、経済成長の足かせとなっています。しかし自国の金融政策を有効にするためにも、人民元の変動は極力抑制したいという事情があります。

 

次に、中国政府の経済運営です。急速な成長を目指すため、中国は積極的なインフラ整備を進めます。企業も設備投資に偏重しました。この背景には、中国が抱える膨大な農民「出稼ぎ工」の存在があります。彼らがいる限り、廉価な労働力はいくらでも確保できたからです。それを一気に加速させたのは、胡錦濤政権の時代でした。未曾有のリーマン・ショックに直面したこともありました。こうして中国内には過剰なまでの資本蓄積が進んだのです。

 

中国と言えば、不動産バブルの崩壊時期が常に話題になります。特に住宅価格の、都心部での高騰ぶりは尋常ではありません。しかし、実際には土地供給が政策的に制限されるため、「バブル」が生じている側面の方が強いと思われます。また地方政府の利益源であることも、「バブル」を誘発する動機になっています。そんな状態で、景気刺激策としての大量の資金を市中に流せば、不動産価格は上がるに決まっています。このような歪んだカラクリが、中国経済を歪にしてしまっているのです。

 

 

総括・中国バブルはなぜ崩壊しなかったのか? 101回目の中国崩壊論とチャイナリスクを再検証(1/4) | JBpress(日本ビジネスプレス)

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中国ではバブル以上の重要な問題として、経済格差があります。貧しい内陸の出稼ぎ農民と、都会でタワーマンションにいくつも部屋を有している富豪。両者の格差は、日本人の想像を絶するほどです。そこで政府は、非効率を承知で、内陸部への投資(=「西部大開発」)を行い、経済の足を引っ張っても反腐敗運動を推進しています。すべては、国民の不満を解消するためです。また賃金上昇や福祉向上などの様々な改善策を法制化し、企業に課してています。これは、別の側面として、内需成長を促す取り組みでもあるようです。

 

中国の国有企業改革は、外からではなかなか分かりづらいです。独占的地位を利用し、成長・拡大を続けている企業もあれば、ただ生き延びているだけの「ゾンビ企業」すらあるでしょう。しかし、後者においても一定期間雇用を守っていると考えると、あながちムダと結論づけるわけにはいきません。

 

finance.sina.com.cn

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最後に、中国崩壊論を叫ぶあるいは望む人たちは実態を見ないで、中国経済を語ります。アホのひとつ覚えみたいに、共産政権のもとで抑圧された経済では、イノベーションは生れないとか、ミッキーのモノマネばかり作っているなど。ところが、実態は逆です。知財の出願件数ではすでに世界一の水準に達し、スマホなど特定の製品領域ではすでに日本を凌駕しています。しかもそこには大量の日本部品が使われているわけですから、十分にオープンなのです。シェアバイク(自転車)では大量の自転車がゴミのように散財している風景ばかり日本で報道されていますが、実際には、市民の足としてすっかり定着し、徐々にルール化され始めています。電子マネーの浸透ぶりは、すっかり中国の印象を変えてしまいました。

 

中国経済については、日本において、客観的な議論がなされることはほとんどありません。バカにしたり、不安を煽ったりするばかりで、中国の内在的な進化に目を向けていません。はっきり言って、問題だらけの中国経済は、日本のそれと大して変わりません。どの国にも課題は山積しているものなのです。強いてチャイナ・リスクを挙げるとしたら、アメリカの中国敵視政策ではないでしょうか。トランプ大統領の登場で急速に高まったリスクは、一部の中国企業を連鎖倒産に追い込む可能性すらあります。それに比べて、批判の多い「一帯一路」などは、本書にもある通り、中国の内在的要因で始まった政策なので、多少の修正を迫られてもリスクにはなりえません。