「がん」はここまで分かった!最新研究に迫る良書(ただし、相当難解です)。

 

「がんとは遺伝子の病気」だと言われています。しかし、これだけでは何のことか分からないでしょう。正常細胞が分裂する時に起こすコピーミス、これが「がん」に化けると言われています。しかし、正常な体なら、自己の免疫機構がこのコピーミスで生じたがん細胞をやっつけてくれます。もしもこの免疫力が、何らかの原因で低下していたとしたら、がん細胞は異常増殖を続けてしまいます。

 

がんはどうしてできるの? がんとがん治療~|保険・生命保険はアフラック

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では、なぜ増殖したがん細胞が、人を死に至らしめるのでしょうか。3つのパターンが知られています。ひとつはがん細胞が増殖し、塊(腫瘍)となって消化管や気管を塞いでしまう。二つ目は腫瘍が大きくなり、正常細胞の機能を妨げてしまう。しかもがん細胞は転移性を獲得したのち、どの臓器で発現されるか分かりません。三つ目は「悪質液」(一種の炎症状態)に陥り、エネルギーや栄養がそこに盗られてしまう。すなわち体力の消耗を招いてしまうのです。

 

ここで正常な細胞についても押さえておきましょう。「がん細胞は健康な人のカラダでも、1日に5,000個が発生しては消えていく」そうです。それでもこの比率で見ると、ほんのわずかです。つまり、それを修復することくらい、健康なカラダであれば容易なことなのです。また、正常な細胞は互いにくっつき、細胞社会の中でルールを同じくして共存しています。増殖を自律的に抑制する仕組みが備わっているのです。さらに、正常細胞はみずからの足場から離れてしまったが最後、他の場所で生存することはできません。

 

転移性肝がんの原因は? 最も多いのは大腸がんからの転移 | メディカルノート

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がん細胞が恐ろしいのは、転移性を獲得してしまうことです。転移性とは、一個一個の細胞がバラバラになっても、生きていけること。本来なら、浮遊し出した細胞が、栄養を得る手段はありませんでした。しかしがん細胞が自ら血管を造り、違う足場のもとで増殖を始めてしまう。恐ろしいことですが、その実態が明らかになってきました。今の研究は、この転移が、どのような選択過程を経て成立してしまうのかというテーマに向けられています。また、正常細胞であったはずの、幾重もの機能は、なぜ無効化されてしまうのか、分子レベルでの研究も進められています。

 

 

血中循環がん細胞(Circulating Tumor Cell)

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がん細胞の転移性を逆手に取った検診方法があります。「がんが進行するほど、血中循環がん細胞の数は増えて」いきます。したがって血中のがん細胞を捉えることができれば、がん検診が可能になるそうです。ただし、血中循環がん細胞が見つかっても、すべてが転移・再発するわけではありません。また転移しようとするがん細胞を休眠状態にできれば、がんの進行を止めることにもつながります。

 

がん10年生存率:58% 定期的受診の指針に初のデータ - 毎日新聞

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がんに対しては、もっぱら予防の話題が先行しがちですが、がんと診断され治療を受けた人の生存率は必ずしも低くないことがデータでまとめられています。もちろん「ステージ4」などと診断された場合、おおかた9割以上の人が10年以内に亡くなっていますが、早期発見されたケースでは、がん細胞とともに生きられることも確認されました(ただし、肺がんは極端に低い結果が出ている)。これを踏まえても、早期発見し、免疫機構を機能させる生活習慣の改善は必要になりそうです。

 

冒頭でも述べたことですが「がんは遺伝子の病気」です。それゆえに、臓器単位でがん細胞を特定する方法は必ずしも正しくありません。むしろ原因遺伝子を特定していく時代がまもなく来ると予想されています。そうなると、遺伝子に合わせた治療薬が求められるようになります。これを政府レベルでは「がんゲノム医療」と表現して、推進しています。

 

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しかしこのような取り組みがパンドラの扉を開けたと言えなくもありません。なぜなら、がん細胞とはそもそもが多様な変異の組合せで成り立っているからです。一種類の薬ではそれを根治できるとも限らず、かつ時間がかかればそれだけ治療抵抗性を獲得する可能性も増してきます。

 

最後に、政府はがん対策に本腰を入れ、ゲノム医療を公的医療保険の対象としました。今後集まってくる大量の個人データの解析を進め、あらたなイノベーションにつなげていくのでしょう。がんとは人類が記録をできるようになった時代(紀元前2600年頃の古代エジプト)からすでに存在している病です。長寿を実現できるようになった人類にとって、老化とともにその発症率を増すがん細胞の研究は無視できないものになりました。この試みが、医学をあらたなステージへ引き上げてくれることを期待しながら、その研究成果を見守り続けたいと思います。