世界情勢の読み方:グローバリゼーションの視点から。

ビジネスパーソンのための近現代史の読み方

ビジネスパーソンのための近現代史の読み方

 

 

非常に骨太のテーマで、かつ膨大な情報や知識を整理してくれている本書。だが、読みにくいこと、この上ない。そんな文句を言いつつも、全部読み通して、現代がいかに成り立っているかをあらためて学ぶことができました。細かく見ると、読み解けない変化が、大きな歴史の枠組みの中で見ると、すっきりしたりします。たとえば、オバマからトランプにかけての米国ですが、一見「何が何だか分からない」状態です。しかし、世界的なグローバリゼーションがその修正期に入っているという文脈の中で眺めると、極めて単純な構図でした。

 

そもそも、「グローバリゼーション」とはこれまで三度あったようです。記憶に新しい三度目は、英・サッチャー首相、米・レーガン大統領の頃に始まります。英米が自国の利益のために推進した強気の政策は、国内問題で内向きだった両国を大きく変え、最後には冷戦構造を瓦解させるまでに至りました。そんな英米が40年の時を経て、「ブレクジット」や「トランプ」を生み出し、路線変更を強烈に印象づけました。

 

コラム:英EU離脱、新自由主義時代の終焉か=河野龍太郎氏 | ロイター

https://s3.reutersmedia.net/resources/r/?m=02&d=20160706&t=2&i=1144337205&w=&fh=&fw=&ll=644&pl=429&sq=&r=LYNXNPEC6517Q

 

 

 

 

今後世界がどうなるか。それを予見できるほどの知見を、私は持ち合わせませんが、本書とともに、第二次グローバリゼーションを振り返ってみましょう。19世紀に完成した大英帝国そのものが、世界の一体化を実現させました。今日的に重要なのは、当時敷かれた海底ケーブルです。米国でモールス信号が考案され、英国では電線を使った電気通信が発明されたことに端を発します。その後、英植民地のマレー半島にて得られた天然ゴム(ガタパーチャ)を、海底電線用ケーブルの被覆に用いました。これを駆使し、英国はその帝国中に電気通信ネットワークを築きました。それを担ったのは、英・国策会社ケーブル&ワイヤレスです。今日のインターネットにつながる大発明だったと言えます。

 

100年前の人はどうやって海底ケーブル埋めたの? | ギズモード・ジャパン

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そんな大英帝国は二度の大戦を経て凋落していくのですが、 彼らの築いた国際分業の枠組みが世界各国の運命を大きく変えていきます。国際金融の仕組みも整備され、今日に続くロンドン・金融街シティが誕生しました。また見逃せないのは、この時代に、帝国内を移動した労働力の存在です。特に、インド系と中華系は、彼らが好むと好まざるとに関わらず、様々な植民地に散らばっていき、現地での存在感を高めました。こうした人の大移動はグローバリゼーションには欠かせない要素であり、かつそれを崩壊せしめる力を持ちます。今日の「反」グローバリゼーションの機運は、まさにその移民問題から生じていると言えます。

 

さて、第三次、第二次ときたら、第一次グローバリゼーションについても触れておかねばなりません。本書ではそれを、大航海時代と定義しています。この「第一次」はおしなべて評判が悪いのですが、「投機」、「収奪」などとも呼ばれました。この時代の主役はポルトガル・スペイン・オランダなのですが、間接的に日本の歴史にも大きな影響を与えています。その後、英国へと覇権は移っていき、やがては産業革命と結びついて大きな波を起こすことになるのですが、実はその間にも、新しい動きがヨーロッパ大陸で沸き起こってきます。それが、ナポレオンでした。

 

革命から生まれた皇帝ナポレオンこそが絶対王政の解体者だった | 名古屋のまごころ解体が運営する解体と創造の情報メディア

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ナポレオンは言うまでもなくフランスの英雄です。しかし、非常に似ている人物を探し出すとしたらそれは20世紀の大悪人・ヒトラーです。ともに国民の支持を得て、混乱した祖国を救い、そして対外的な戦争を仕掛け、最後にはロシアと英国に敗れてしまいました。それはともかく、ナポレオンの偉大さは、革命側につきながらも、混乱ばかりを増長する革命軍とは一線を引き、国家を進歩させる具体策を次々打ち出した点です。とりわけ、彼が定めた法典は、「私的所有権の絶対」「個人意志の自由」「家族の尊重」を基礎とし、今日につながる民法・商法・民事訴訟法・刑法・治罪法をまとめたものです。国家統計もこの時代に整備され、徴税や徴収を目的にした近代的制度が整えられていきました。この頃から出入国管理も初めて厳格化され、国民を管理する仕組みが生まれました。こうして、市民の不満に応えるとともに、財政破綻を招いた絶対王政時代の反省として近代国家の建設に邁進したナポレオンでしたが、フランスを覇権国へと押し上げることはできませんでした。皮肉なことに、逆に、「国家」という概念を成立させ、周辺国に輸出する結果となりました。反グローバリゼーションの動きのひとつと言えるものですね。

 

中野剛志×柴山桂太 立ち読み|kotoba(コトバ)

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その後、戦いに破れたナポレオンは失脚し、英国が軍事的に覇権を握ります。そしてナポレオン後の世界に、 しばしの平穏が訪れます。平和を取り戻したヨーロッパでは産業革命が各地に始まり、近代国家の機運が各地で盛り上がりました。ドイツはその代表例です。工業化には、原料と市場とが必要になります。それゆえに、ヨーロッパ各国の海外発展が進められました。当然それに先行していた英国は、大英帝国を築き、全盛期を迎えることになります。

 

ここで振り返ってみますが、第一のグローバリゼーションは「収奪」でした。第二は「帝国化」。第三は、冒頭ですでに示しましたが、 新自由主義の拡散です。これは別名「マネー」至上主義に置き換えることができると思います。決済通貨を有する米国はいまだに最強の覇権国です。軍隊の力もすごいですが、ベトナムで敗れ、イラクで苦戦したことに比べ、米ドルの支配的な地位は揺るぎそうにありません。これをもって、世界に押し付けたがの「自由貿易」体制です。米国民が最大の受益者となりました。しかし、英米はすでに、その路線の見直しに入っています。なぜなら、今日的なグローバリズムは、国家主権の一部放棄を含んでしまっているからです。経済格差や移民・貧困などの問題を解決するのに、国がただ呆然としているだけでは、国民の怒りは収まりません。おのずと、色々な問題を解決する主体として、国が主権を取り戻すという動きに至っています。

 

 

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最後に個人的な意見で締めたいと思いますが、グローバリズムとその揺り戻し、という視点で見ると、英米から始まった新しい流れは、あまり大げさに考えない方がいいです。確かに、トランプ米大統領の言動などを見ていると、激しい逆流が生じたような感じもしますが、その実、彼は、金持ち(マネー)にも、「負け組」と称される人々にも、いい顔をしている(民主主義対策)にすぎません。逆に彼は、世界の人々がトランプ氏への投票権をもたないため、軽視しているだけなのです。むしろ、本書が指摘している通り、オバマ政権から始った自由経済への関与こそが、新しいうねりとして今後も続くのでしょう。英国も同様です。好きで、EUを離脱するわけではありません。人道や環境など、ドイツの理想主義があまりにも強すぎるために生じた一時的な調整です。おそらく、変わらねばならないのはEUの方だと思います。そう考えると、もともと「超右派」路線(移民排斥、保護主義的)だった日本が、いまだグローバリゼーションの方向に舵を向けているのは正しいと思いますね。