エーゲ海を旅する前に知っておきましょう、古代発掘史

 

神話はどこまでも神話にすぎない。そんな偏見が歴史を学ぶにつれて、だんだん薄れてきました。神話の中には、色々なヒント、さらには神話を作った、あるいは伝承した人々の思惑が含まれていることを知るようになりました。「トロイの木馬」という有名なお話は皆さんも知っていると思いますが、そのトロイという町が本当に発掘されていた(ただし諸説あり)のですね。その立役者がハインリヒ・シュリーマンです。舞台はギリシアです。

 

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そのシュリーマンが発掘した遺跡は、いまだ、トロイと確定したわけではないそうです。歴史家・考古学者というよりは、事業家・夢追い人とされる彼の思いが、やや先走りしてしまったのではと解されています。それゆえに、彼の自伝でさえ、事実を歪曲・脚色したものだと言われてしまう始末。ちょっぴり残念ですね。それでも、彼が古代の神話や伝説に情熱を傾けたことは事実で、それを発掘という方法で証明しようとしたことには敬意を示しておきたいです。

 

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シュリーマンが発掘した現場は、「世界遺産」に指定されています。トルコ西部、エーゲ海を数キロ先に見渡す丘が、その場所です。その遺跡は、9層にわたり積み重なる都市の遺構で、「第一市」は初期青銅器の時代から、「第九市」の紀元前400年頃(ローマ時代)にまでまたがっています。この場所は今日、遺構を除いては何もなく、「トロイの木馬」のオブジェと展示室があるそうです。トロイ戦争が描かれた叙事詩イリアス』は、紀元前800年ごろの作品です。「第六市」または「第七市」がトロイの木馬の時代と言われています。「第八市」の頃にはギリシア人の都市になり、「第九市」はローマ人の都市だったとか。その肝心の「第七市」は、不幸にも、(学者ではない)シュリーマン乱暴な発掘によって削り取られてしまったようです。それにしても、2000年以上にわたる都市の歴史、しかもそれはすべて紀元前のことです。地中に埋まっては、何度も築き直された都市の深さは、日本人には想像を絶するものがありますね。

 

トロイ遺跡|トルコ 世界遺産|阪急交通社

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日本人には(受験勉強以外では)あまり馴染みのないギリシアですが、新婚旅行と言えば、アテネの神殿とエーゲ海ツアーはご存知でしょう。特に後者は、大型クルーズ船に乗って、いくつかの有名な島々を回ることができます。2000を越える島々があるエーゲ海ギリシアとトルコに囲まれた入江状の海の中に位置し、地中海側ではクレタ島がその南端になります。このクレタ島にて、目下「ヨーロッパ最古の文明」とされるミノア文明が発掘されました。 地中海をはさんで当時の先進地域だったエジプトとの類似性も多数見られます。この文明はいくつの島にまたがり、そのうちのひとつ;サントリーニ島は、ツアーではほぼ必ず訪れる場所です。同島には3階建ての建物や排水(下水)設備が発掘されています。今から3500年前~4000年前の人工物です。実はこのミノア文明を滅ぼしたのが、本稿の主人公・シュリーマンの発掘するミケーネ文明だとされています。

 

1.世界遺産にみる地中海域の古代・中世社会 - 3. クレタ島「ミノア文明」と「クノッソス」等

http://www.ozawa-katsuhiko.com/1sekai-isan/crete/crete_image/crete_02.jpg

 

絶景だけじゃない!ギリシャ サントリーニ島のワインについて | MELLOW[メロウ]|ワイン生活向上マガジン

http://wine-mellow.com/wp-content/uploads/2018/02/20180214500-05.jpg

サントリーニ島、謎のミノア文明 | Nota Bene | Eugene Kaspersky Official Blog in Japanese

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ミケーネ文明(紀元前1600年~前1200年)は非常に好戦的だったそうです。北方のヒッタイト(人類最初の鉄器文明とされる)とも交流があり、文字を含めてミノア文明の多くを継承しました。ミケーネはミノアと同様、青銅器文明でした。交易路も確立しており、様々な王国が共存していました。シュリーマンが掘り出したものの中でとりわけ有名なのが、黄金のマスクです。現在は、アテネ国立考古学博物館に展示されています。シュリーマンは、紀元前8世紀のギリシアの詩人・ホメロス叙事詩に触発され、みずからの後半生にて、ミケーネを掘り当てました。それ以前には、そのミケーネ文明が滅ぼしていたトロイの遺構を掘り出しています。いずれも当時の学会をひっくり返すほどの偉てでした。私たち日本人が勘違いしやすいのは、これらギリシア初期の文明が、古代ギリシアのポリス(都市国家、紀元前8世紀~)誕生以前の話であること。しかもそこからさらに500年以上の時(古代ギリシアの暗黒時代と言われる)を経て、ミケーネのドラマが、ギリシアの新しいポリス台頭の時代にまで語り継がれていることに驚きを隠せません。日本には2000年の歴史がある、と威張っていた自分が恥ずかしいです(笑)。

 

『アテネ国立考古学博物館【2】黄金のミケーネ文明(紀元前16世紀~前11世紀頃)』国立考古学博物館周辺(ギリシャ)の旅行記・ブログ by +mo2さん【フォートラベル】

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こうした私たち人類・文明初期の営みは、破天荒な事業家・夢追い人の魂によって、世に知られるようになったことも記憶に留めておきたいですね。シュリーマンの人生(自伝)には色々な物議を挙がっておりますが、それはそれとして。。。