統計を見たら、その都度学びましょう

考える技術としての統計学 生活・ビジネス・投資に生かす (NHKブックス)

考える技術としての統計学 生活・ビジネス・投資に生かす (NHKブックス)

 

 

統計はよく嘘をつきます。少年犯罪の急増と言われて、1990年から2001年の(都合のいい区間)データが示されます。しかし、増加しているのはこの期間だけで、1950年をピークに1980年には5分の1まで減り続けていたのでした。これと比べれば、増加と言っても少々戻しただけで、2000年代には再び減少に転じています。つまり、基準や区間をどこに置くかで、見方がまったく変わるのです。これと同様に、飛行機と自動車の安全性比較も有名な事例です。一度の事故の死傷者は飛行機の方が多くなりそうですが、統計的には、1億回の利用での死亡者数は自動車6.3人と飛行機10人、1億キロの移動距離では自動車0.95人と飛行機0.01人。これではどちらが安全なのか分かりませんね。そしてよくあるアンケート統計の嘘。これは、ついつい見栄を張る、良い子ぶる、あるいは回答者が特定の回答に偏りがちになる等、統計結果に明らかなバイアスがかかってしまいます。

 

 

 

統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく あなたは4つの質問に騙されない自信がありますか? | 投信1 | 1からはじめる初心者にやさしい投資信託入門

http://www.toushin-1.jp/mwimgs/9/d/-/img_9d301e5b6b46e4ee3e3fceab58ad1ab321588.jpg

 

 なぜ、この3つの典型的な「嘘」が生じてしまうかと言えば、そもそも目的が正しくないからです。「少年犯罪が急増」というのは、期限を区切れば必ずしも嘘ではありません。しかし、直近の数字ではない、増加期間だけを取り出して、何がしたいのでしょうか。また、それぞれ対象がまったく異なる自動車と飛行機を比べて、何が言いたいのでしょうか。さらに、アンケートについては、何をどうやってもバイアスがひどくなります。よくあれだけ無意味なことを、熱心にやっているものだと呆れてしまいます。統計を用いる目的が歪んでいれば、これは統計手法をどういじってもムダなのです。

  

まなぼう統計 / 統計を知ろう・学ぼう / 統計のはじめの一歩 - 統計とは

http://www.toukei.metro.tokyo.jp/manabou/img/tyuu/sirou/ippo/towa1-1.gif

 

統計とは、大量のデータを扱い、そこから何かを見出す手段です。「統(す)べて計る」という言葉もこのことを示していて、「多くのものを一つにまとめ、ある基準をもとにして物の度合いを調べる」ものが統計なのです。大切なのは、目的と基準(条件)です。どうそろえて、何を示したいのか。これをきちんとしていればこそ、統計が使えるようになります。その出発点になるのが「平均」という考え方です。データを足し合わせ、その件数で割るというのが単純平均、いわゆる算術平均と言って、これは平均の中のひとつです。その他、加重平均や幾何平均や調和平均等、実は色々あります。データの特徴を見出し、それを比較可能にすることが統計の役割ですから、最適な表現(計算)手法を決める必要があります。

 

www.netlifehack.com

 

なぜ、こんなに多くの「平均」があるのか。それは実感としての「ふつう」を取り戻すためです。平均以外が適している場合もあります。たとえば、日本銀行による「家庭の金融資産に関する世論調査」の結果ですが、回答者の金融資産・平均は1073万円(2006年)だそうです。この数字は一人歩きしてしまい、資産形成を勧める金融機関の誇大広告に使われています。「ふつうの日本の家庭は一体いくらくらいの資産があるのだろうか」という問いに、1000万円という解はなかなか腑に落ちません。実際のデータ分布を見れば、その原因は明白です。なぜなら、ほんのわずかな人数が、数億円の資産を持っていて、平均値を引き上げてしまったからです。ではこの場合、平均に代わって何を用いるのがいいでしょうか。最頻値や中央値はその候補です。この金融資産調査の場合、中央値は420万円だったそうです。これなら、私たちの生活感覚に近くなったはずです。

 

 

使える!統計講座 【深瀬勝範】|人事のための課題解決サイト|jin-jour(ジンジュール)

https://www.rosei.jp/jinjour/wp-content/uploads/zb1-548x423.jpg

 

では平均の事例に戻しましょう。労働者の給与平均を求める時、会社によってずいぶん違うのは、感覚的にも分かることです。しかし、数万人の会社と数人の会社の平均給与を足して2で割っても正確な平均値は出ませんね。したがって、そこでは加重平均という計算方法が用いられます。その他、時系列の膨大なデータ、たとえば毎日の売上推移であれば、エクセルにて簡単に移動平均のグラフが得られます。正しく「平らに均す」、そのことを各種平均で学べるはずです。

 

orekabu.jp

ビジネスマンであれば、結構気になる数字に「日経平均」があります。いわゆる株価指数ですが、ここでも平均が使われています。「日経平均株価」とは、日本経済新聞社東証一部に上場している企業から独自の基準で選んだ225銘柄の平均株価のことです。ただし、日経平均株価は単純平均ではありません。まず「みなし額面」を50円にそろえます。そして対象株式を入れ替えた時の、株価の差をもとに更新した「除数」で割っておくのだそうです。つまり、株式の基準差(額面差)を解消し、かつ入れ替えた時に生じる差を調整して、指数の連続性を担保しているのです。ではなぜ、日経平均は225銘柄に絞っているのでしょうか。その答えはもうひとつの「TOPIX」にあります。

 

TOPIXとは|ビッグカンパニー

http://jice.homemate.co.jp/isc/useful/15635_stock_036/img/15635_stock_036_02.gif

 

TOPIX(=Tokyo Stock Price Index、東証株価指数)とは、東証一部の全銘柄(約2000社)を対象に、その時価総額の合計を全銘柄数で割った平均です。TOPIXは1968年1月4日の時価総額を100として、現在の時価総額をポイントで表しています。1989年には「2884」でピークを記録し、直近では「1725」付近です。ところが、こんなニュースを聞いたことがあるでしょう。「2017年度末の東証1部の時価総額が647兆円・・・バブルのピークを大きく上回った」と。それなのになぜ、TOPIXのポイントはバブル期の6割なのでしょうか。その原因が2006年の浮動株基準株価指数への移行でした。つまり、指数の中身が、全銘柄ではあっても浮動株に限定されるようになったのです。しかし、時価総額の高い銘柄にポイントが引っ張られるという欠点は存在したままです。これを調整したものが、日経平均ですね。

 

toyokeizai.net

 

なぜ、海外投資家は日経平均を信用しないか | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online

http://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/e/-/img_2e5496bcca6bb97fc7afcda94df4c49919645.jpg

 

これらの指標は、どちらに優劣があるのですが、関係者が努力して改善をしている点を勉強していくと、指標の意味や統計の特徴などが分かります。私たち利用者が統計表を見た時には、その作成基準や比較基準などを逐一確認するようにしたいものですね。