コストを下げ続けることこそ、企業の生命線だと思う

トコトンやさしいコストダウンの本(第2版) (今日からモノ知りシリーズ)

トコトンやさしいコストダウンの本(第2版) (今日からモノ知りシリーズ)

 

 

コストダウンとは、知恵と工夫の結晶です。品質を下げたり、手を抜いたりすることではありません。利益に還元するもよし、価格を通して市場を広げるもよし。コストをコントロールする力が、(生産や流通、販売等の)現場を掌握する企業の力でもあるわけです。 こう考えると、嫌々やるものではないことが分かります。今日のように分業が徹底し、費用が透明となっている環境では、他社より大きなコストダウンを実現するのは簡単なことではありません。つまり、「見える」コストはすでに下げきっているケースがほとんどなのです。競争の結果を左右するのは、「見えない」コストへの敏感さと執念でしょうか。

 

 

「見えない」コストとはたとえば、無形のコストが挙げられます。まだこれが、電気・水道・ガス代であれば、毎月の費用をシビアに見ながら低減させることは可能です。しかし、人のミスやシステム的エラー、設備・工具等の不具合等、コントロールしにくく、また比較検討できないものはなかなか改善しづらいものです。あるいは、建物や設備、在庫等の費用等、ついつい「当たり前」だと思ってしまうコストもあります。さらに、在庫切れや備えが間に合わず、機会損失を発生させてしまうこともあるでしょう。これらはすべて「見えない」コストです。

 

もうひとつ、自社内のコストを見直すには、「総原価低減」の視点から検討しなければなりません。開発・調達部門が一体となってコストを下げるような製品仕様を考えるのは、今日では当然のこととなっています。そして、社内製造のプロセスでも組織間の壁を打ち破った連携で、会社全体の費用が下がるように持っていきます。まぁ、このあたりのツールは、すでにたくさん提案されていますのでここでは細かく触れませんが、大まかには次の通りです。

  1. 部品の共通化や共有化。
  2. 作業をやめる・減らす・代えることでの改善。
  3. 工程・作業・動作などを細かく計測し、ムダを見つける。
  4. クレームや不良品を減らす(歩留まり向上)。
  5. 過剰な機能・基準・仕様を見直す。

 

シャープ戴社長「鴻海流コストカット」の全容 | IT・電機・半導体・部品 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

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台湾・鴻海の傘下で経営再建に取り組んでいるシャープ。2016年3月期に営業益1619億円の赤字に沈んでいた状態が、2017年3月期には一転して474億円の黒字が見込めるところまで改善されていました。一体、何が起こったのでしょうか。まずは本社を含めた賃貸料の圧縮や工場の整理統合。鴻海の、利用できる経営資源も活用しました。投資案件に対するトップの関与を強めて、その多くに「待った」をかけたようです。もちろん、鴻海の購買力をフルに使った取引先との再交渉も進めています。さらに、不採算事業の中止も決め、サムソンへのパネル供給をストップさせてしまいました。これは訴訟などにもなっていますが、いずれにしても初年度で黒字化するという劇的な効果を上げるに至りました。ここから先は、売上の反転攻勢とともに、徐々に攻めのモードに切り換えていくようです。

 

Dの問題/3.1納期とはなにか?

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コストダウンと言えば、トヨタお家芸です。トヨタ式が目標とする「生産計画の平準化」や「小ロット生産での在庫ゼロ」などは群を抜いたコスト力を発揮しています。常識ではありますが、なぜ「在庫は害悪」なのでしょうか。在庫はすなわち会社の資金が寝ている状態です。今日では微々たるものですが、資金では利息を生むはずなのに、在庫では逆に保管コストがかかっています。しかも、それを取り扱う人々の人件費はバカにできないし、在庫が劣化・腐敗するリスクも含まれます。そして何より、現場は在庫を欲しがるという悪習があります。その理由は下記の通り:

  • 品質トラブルを隠そうとしたり、
  • 設備トラブルや作業能力の問題もごまかせたりします。
  • 余剰人員がいることを隠せますし、
  • 自分たちの管理の不備が見つからないようにもできます。

 

つまり、余分な在庫があっては、本当の問題も見えにくくなってしまうのです。在庫だけではありません。工程分析を行えば、動作研究をやったり、ムリ・ムダ・ムラの検証を行ったり、機械(工具)と人間の連携がうまくいっていない箇所を見つけたり、移動・運搬という付加価値につながらない行動が多かったり、様々な課題が見つかるはずです。特に、全体の効率を確認した上で、ボトルネック工程を把握することは極めて重要です。なぜなら、ライン全体の効率は、ネック工程の効率にまで下がってしまうからです。

 

IE手法とは?

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今日では、多品種少量生産になり、「段取り替え」の時間も重要になってきています。「段取り替え」とは、ある品種から別の品種へ生産の切り替えをする作業のこと。段取り替えの最中は生産を止める必要があるので、付加価値を生みだすことができない、つまりそれをゼロにすることが求められるわけです。この「段取り」はさらに内・外に分かれます。実はここが意外と大事で、難しい課題に直面した時、それを解決できそうなところまで因数分解することが重要です。外段取りとは、段取りのために、作業中でもできる準備のことです。だから時間短縮できるかもしれません。「内」だった部分を、「外」化することも必要です。

 

toyokeizai.net

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 最後に、「コストダウン」のまとめですが、生産工程から取引先まで、いかにそのすべてを掌握しているかがコスト・コントロール力ですね。そもそもコストが「見えていない」のは論外で、かつそうした要素を測定し、改善し、最後には消滅させてしまえる力が、今日的「量産」企業の生命線だと思います。あらゆるモノは、コストが下がることで普及し、その上で初めて、次の付加価値を獲得していけるようにもなります。そう考えると、企業にとっては「終わりのない、日常的テーマ」なのですね。