ビジネスの「改革」なるものの模範例を一度見ておく

業務改革の教科書―成功率9割のプロが教える全ノウハウ

業務改革の教科書―成功率9割のプロが教える全ノウハウ

 

 

本書の大半は、社内システムの改造や導入などを前提にしたプロジェクトを意図しています。そういう意味では、大企業の、IT系システムのお話なのですが、その内容は会社の再建や事業の見直しにも通じるところがありそうなので、自分流にアレンジしてメモしておきます。

  1. 標準化:
    バラバラな判断基準・人事規定・商習慣・取引規約等をそろえる。
  2. 一元管理:
    企業・グループ・チームでの一体経営で、トータルの効率を高める。
  3. 業務集約:
    すべての業務ではないが、一括することで効率改善や問題解決が図りやすい。
  4. 外注化・内製化
    コストや安定性、発生頻度やノウハウの重要性などで総合的に判断する。
  5. 承認プロセス:
    複雑な意思決定を簡略化したり、不明瞭の責任権限を明確にする。
  6. 納期短縮:
    スピードはコストを下げ、リスク耐性を高める。

 

 

 ここでは、「業務改革」というより、事業改革としてお話を続けます。ユニクロのような、何度も危機的状況に見舞われては、そのたびに再浮上してくる企業は、まさにトップ主導の改革パターンを有しています。逆に、ボトムから常に改革を習慣化させているトヨタは、私たちのお手本と言えるのかもしれません。いずれにしても、彼らは強い危機感を有し、勇気ある前進を続けています。覚悟をもった現場が、明確なゴールに向けて邁進しているからこそ、今日のような圧倒的な強さが築けているのでしょう。

 

ブーム再来!?なぜ「ユニクロ」だけが売れるのか~“強さ”の理由を徹底分析 - 日経トレンディネット

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事業改革には、まず「問題を正しくとらえる」こと。特に、現場が違和感や不信感をもつようなことは、必ず解決しておくべきです。問題提起の際は、調査を通して、現場の声を数字に置き換える努力をしておきましょう。次に、改革のコンセプトですが、それは「明確なゴールとそこを目指す動機」をはっきりさせておきます。そして人選です。使命感をもって、粘り強く取り組める人間の存在が欠かせません。これら三つがあれば、改革のための取り組みは、とりあえず前に進みます。とまぁ、ここまでは、どの教科書にも書いてありそうなことです。

 

 

toyokeizai.net

なぜコダックは破綻し、富士フイルムは好調なのか | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online

写真フィルムはかつて世界で4社しか製造できなかった商品である。ところが、デジタル写真技術の進歩で、銀塩式の写真フィルムの需要は縮退してしまった。ドイツのアグファは、X線写真とその解析技術を深掘りし、プロ用の市場、医療用の市場というニッチを深く耕した。日本のコニカは、写真機メーカーのミノルタと合併し、デジタルカメラや複写機など技術の幅を拡大している。富士フイルムは、複写機、デジタルカメラ、電子部品・電子材料など、蓄積された技術の周辺で応用分野を広げる形での事業・商品の広範な多角化によって生き残りを図ってきた。

 

 

電子製品のメーカーでもなかった富士フィルムが、デジカメメーカーに生まれ変わり、さらに次のステップへ踏み出しました。その改革のすごみがはっきり分かったのは、かつて超優良企業だったコダックが破産してしまった時です。ライバルは破産、こちらは新たな成長を得る。その違いはどこから来たのでしょうか。もともと多角化の基礎はあったらしいのですが、それでも重要な契機となったのは先手となったリストラでしょう。当時、利益の7割を占めていた写真関連事業、その社員15,000人のうち、3分の1に当たる5,000人もの人員をスリム化することにしました。体力があるうちに「配慮のある」リストラを行い、それでもって写真関連事業は残しました。競合だったコニカミノルタが撤退を決めたのとは対照的でした。そして今日では、残した事業さえも同社の業績に貢献しています。アナログなフィルムカメラ「チェキ」ですね。

 

 

trendy.nikkeibp.co.jp

スマホの普及とともに、カメラ市場に吹く逆風の強さが増している。2016年のデジタルカメラ出荷台数は2418万9870台だった。前年比で68.3%と大幅に減少したことになる。 しかし、2007年ごろからアジア地域でチェキがはやり始めたことを機に上昇に転じた。2017年のチェキの販売台数は前年比13%増の750万台と予測されている。

 

富士フィルムの改革前には、「技術の棚卸し」をやったそうです。「やれそうか、やるべきか、やりたいか」、この三つの軸で整理したのです。技術的な裏付けを確かめ、業界のトップになれそうか否かを検証する。そこに会社の思いを重ねてみる。こうすると、自分たちで何ができるか見えてきます。同社の場合、写真関連事業で培ったコラーゲンの制御技術が化粧品に応用できると判断できました。写真フィルム製造技術は微粒子の制御技術であり、それがそのままスキンケアに当てはまったのです。こうしたアイデア出しは通常、付箋とホワイトボードで、一覧化させる手法が用いられます。一度、色々なモノやアイデアを並べて、最後に収斂させていきます。化粧品業界は、大手に限らず、業界がウヨウヨいるところです。ベストワンではなく、オンリーワンになれる可能性があったこそ、新規参入を決められたそうです。

 

 

biz-journal.jp

 

ここまでの説明は、まず、問題を数字でとらえ、危機感を共通認識にしたこと。次に、余裕があるうちに、やめること・ものを決めてしまうこと。そして現状や課題を一覧で並べ出す。これらのステップで改革準備を進めてきましたが、いよいよこれから、実行段階に入ります。それぞれの課題に解決案を出してもらい、優先順位をつけてまとめていきますが、既存の業務を大胆に見直すこととワンセットになります。それが冒頭の、業務改革6パターンです。6つもありますが、実際には、社内の経営資源のコントロールを強化することに他ならないのです。既存の事業から新しい事業に資源を割り振り直すためでもあります。外注化してしまうものや内製化させるものもあるでしょう。そこで活きる考え方は、「ECRS」の法則です。

  • Eliminate=そのプロセス(仕事)をなくせないか。
  • Combine=そのプロセスを他と統合できないか。
  • Rearrange=プロセスの順序を変更できないか。
  • Simplify=プロセスをもっと簡単にできないか。

 

この段階で現場人員にも参加してもらい、個々の解決案を積み上げながら、マスタースケジュールを決めていきます。要は、ゴール期限のことですね。社内外の事情を考慮して期限を区切り、その中でやりえるもの、効果が大きいもの、現場がやりたいものを考えながら決めます。個々の作業計画はそこからの逆算です。追加投資や人員増加が必要な場合、その次に考えます。ここで無視してはならないのが、社内の繁忙期を避けるという配慮です。改革と既存の仕事がぶつかってしまっては、それだけ社内外の抵抗が大きくなってしまう可能性もあります。計画の最終案はバッファーをもたせてものにしておきましょう。改革には「想定外」がありえるからです。

 

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最後にリスクの洗い出しです。ここでは「想定外」は許されません。不安や懸念、ありえることはすべて確認しておきましょう。これはボトルネックを見つける作業でもあります。たったひとつのリスクが、他の多くの作業に影響を与えてしまい、結果的に改革がストップすることさえあるのです。 影響度と発生確率の二軸上に、それぞれのリスクを並べ、「即対策」「対策準備」「個別判断」「許容」に分けてください。改革の進捗を妨げる要因は、ここで何らかの対策あるいは評価をしておく。ここが甘いために、世の中の改革・プロジェクトは失敗すると言っても過言ではありません。

 

改革にもしノウハウなるものがあるとしたら、このリスクの洗い出しをどこまでできたか次第だと思いますね。