神格化されすぎたジョブズのプレゼン力ではあるが・・・

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン

 

 

まず、とても大切な大前提。スティーブ・ジョブズ氏は、プレゼンの天才というだけではないと思います。実際に、「事」を成し、数奇な運命を生き抜き、人々の敬愛を勝ち取った人物です。だから、本書が示す「18の法則」を真似て、誰もがジョブズのようなプレゼン上手になれるわけではありません。そこには、人を説得するだけのオーラが必要になるからです。まぁ、それでも、本書が提示するようなテクニックがいくらかはあるので参考にしてみればいいと思います。一番いい事例が、「1000曲をポケットに」と表現した、初代iPodのプレゼンです。

 

ASCII.jp:【コラム】今、明かされる初代iPod発表会の真実──記者100人、予算5万ドルの幻のイベント

http://ascii24.ascii.jp/2006/10/24/thumbnail/thumb300x225-images823101.jpg

 

iPodの開発に当たって打ち出したコンセプトは、即プレゼンをしてそのまま観衆を喜ばせるほどの見事にまとまった内容でした。つまり、プレゼンで大受けするシナリオを完成させてから、その商品の開発を依頼したのではないかと思えるほど、商品の魅力や完成度は突出していました。iPodの事例で言えば、こうです。

  1. CD一枚分の曲を持ち出すのがやっとだった既存の音楽プレーヤー。
  2. 音楽の取り込みや選択も、面倒で厄介なものだった。
  3. そもそもパソコンのソフトを色々といじるなんて、最悪な体験だと思わないか。

 

もし、ジョブズ風に、ライブ調で語ったとしたら、こんな感じでライバルをこきおろしていたでしょう。そして「そんな面倒とはおさばらだ」とでもまとめて、「あんたの曲をそのまま持って出ようぜ」と続けたでしょう。最後に決め台詞「1000曲分だったら足りるかい?」てな具合に締めくくったかもしれません。ジョブズ氏のプレゼンはだいたいこんなステップで、自社商品の紹介につなげています。また彼は、ユーザー目線を忘れません。ユーザーが見ている現在の風景をわざと歪めてしまうのです。「このままで良いと思っているのかい?」と。「音楽は苦痛のためにあるんじゃない。聞きたい時に、好きな曲を聞く。その曲はいつもあんたのポケットにしまっておけばいい」などと畳み掛けられたら、iPodがいくらするのかなんて、気にならなくなっていくでしょう。iPod開発の実話(下記リンク参照)は別として、このような商品コンセプトに洗練させた点が、ジョブズ氏のジョブズたるゆえんです。

 

xiaolongchakan.com

 

 次の事例は「iPhone 3G」です。2008年、ついに日本向けにも登場しました。ジョブズ氏はこの時、「速度は2倍、価格は半分」と表現。キャッチーな表現で、その特徴をまとめました。ちなみに「iPhone 3G」は、3G通信に対応してデータ通信速度が36%向上しました。さらにこのモデルで、サードパーティー製アプリが提供されるようになり、GPS機能も搭載しました。つまりこの二代目の登場で、iPhoneは商業的にも大成功の軌道に乗ることができたのです。ただプレゼンでのジョブズ氏は、短く、シンプルに、軽快に、言うことを絞りながら伝えていました。そして説明する事例には、具体的かつ実質的なものを示していました。くどくなく、成功の道筋をみずから示したかのようなジョブズ氏の解説は、まさにプレゼンの神でしたね。

 

Apple基調講演04 iPhone 3G登場! アップル世界征服への序曲 |Mac - 週刊アスキー

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ただし本稿では繰り返しになりますが、ジョブズ氏のプレゼン力は少々神格化されすぎです。プレゼンをするモノそのものが素晴らしく、開発の段階ですでに、プレゼンを前提にしたかのようなジョブズ氏のコンセプトメイクが活きているのだと思います。それを差し引いた上で、本書が提示しているプレゼン技法のいくつかを並べておきましょう。

  • 全体のロードマップを示す。これは、歴史的な経緯と未来への道筋の中に、プレゼンの対象を置くという作業です。
  • 敵役を導入し、みずからを正義の見方(救世主)として表現する。
  • シンプルで、視覚的。(文章の)箇条書きは使わない。
  • 驚きの瞬間を演出し、キレの良い言葉を使う。
  • 10分を越える説明は飽きられるので、小道具を上手に使う。

 

 

スティーブ・ジョブズのプレゼン術を徹底分析! 〜歴史的名演「iPhone」とベストプレゼン10選〜

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彼がプレゼンをした瞬間に、その内容やヘッドライン(キャッチフレーズやスローガン)が、ウェブサイト、広告、ポスターなどあらゆるチャンネルを通じて発信され、口コミによって一気に拡散し、世界中のアップル・ストアに行列ができる・・・。

 

【三つの本質】

1-1.「情熱」が全て~パッションがテクニックを陵駕する~
1-2.シンプル・イズ・ベスト
1-3.神は細部に宿る 

 

最後に、私から補足しておくと、ユーモアは何にも増して重要だと思います。たとえモノの力が乏しくても、ユーモアで補うことはありえます。あの伝説の、初代iPhoneのプレゼンにさえ、たくさんのユーモアが盛り込まれていました。たとえば、「本日、アップルが電話を再発明します。これです……。(偽のiPhoneの写真を出して)冗談」。観衆は、笑いつつも、期待感を高めていきますね。また、「1つめ、ワイド画面タッチ操作の『iPod』。2つめ、『革命的携帯電話』。3つめ、『画期的ネット通信機器』。3つの新商品です」。このフレーズを何回か繰り返して会場の笑いを誘っていました。キーとなるメッセージを光らせるのも、プレゼンそのものへの関心を高めるのも、楽しさが前提にあるのではないでしょうか。本稿はこれでまとめようと思います。

 

 

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