健康を(やや強引に)ビジネスとして一括りに

 

 本書によると、健康関連市場規模は16兆円(2011年)から26兆円(2020年)へと拡大基調にあると言います。さらに37兆円(2030)も望めると見られています。しかも、その頃には、製造業、卸売・小売業を抜いて、医療・介護の就業者数がトップに。まず、直近の「26兆円」目標に向けては次の課題が挙がられています。

 

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  1. 健康・予防に向けた保険外サービス、
  2. ロボットやセンサーを活用した介護の負担軽減、
  3. IoTなどの活用による個別化健康サービス、
  4. 医療・介護などの分野でのICT化の徹底、
  5. 医薬品・医療機器等の開発や国際展開。

 

これは、政府がまとめた日本再生戦略の中の「名目GDP600兆円に向けた成⻑戦略」に記された第二の項目です。待ったなしの高齢者対策にあって、医療費の抑制と民間経済の好転を同時に達成するためには、健康ビジネスこそその柱になります。しかし現実には、健康業界というのがあるわけではなく、多様な業界にまたいで存在しています。そんな中、注目を集めているライザップなどが牽引するのはフィットネス市場(4390億円、2015年)です。業界全体では一次の乱出店は収まっており、会員の退会も減っているのが最近の特徴です。また国家資格者を必要とする「あはき」市場(鍼灸、あん摩マッサージ、指圧)、医療行為ではない民間療法のリラクゼーション市場(クィックマッサージや足つぼマッサージ)も急成長しています。さらに日本のヨガ人口が100万人突破する(2010年)など、人的サービスを中心とする健康ビジネスは巨大な産業になりつつあります。

 

他方、設備型の健康ビジネスはどうでしょうか。大躍進していたスーパー銭湯には飽和感が出ています。今後、店舗数では閉店・廃業等の減少傾向となるかもしれませんが、入浴を楽しむという健康ニーズは底堅いものがあります。今後は都心部での小型版や、思い切った海外展開が期待されるところです。また、上述のリラクゼーションでは、岩盤浴や酸素バーなどが、いわゆる「設備型」になります。将来は、マッサージチェアやトレーニング機器等が、今流行りの「シェアリング」に供せられるかもしれません。これも設備型です。オフィスやマンションなどの室内共有空間に設置されるイメージですね。

 

 

機能性表示食品:トクホよりも表現自由度が高い機能性表示食品:話題の「機能性表示食品」ってなに?:日経Gooday(グッデイ)

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そして食品もまた健康ビジネスの重要なアイテムです。2015年4月、日本では「機能性表示食品」が登場しました。「トクホ」こと、特定保健用食品の範囲を広げた新しい分類です。事業者が安全性や機能性を示す資料を消費者庁に届けることで表示が可能になります。具体的な違い:トクホではその食品を食べた人に有効性があったかどうかの客観的な評価(血液検査のデータなど)がなければ審査を受けることができませんでしたが、機能性表示食品では、食べた人の主観的な評価をスコア化した研究結果も科学的根拠として認められるようになりました。今後はおそらく、「疲れ」「睡眠」「ストレス」などに関する表示も出てくるでしょう。私のサイトでは化粧品のテーマで触れましたが、通信販売チャネルをフル活用するファンケルが健康食品を始め、参入わずか7年のDHCが通販健康食品で売上トップを達成。両者ともに健康ブランドとしての地位を不動なものにしました。一般のフード業界とは一線を画すのに成功しています。もちろん、大手企業も黙っていません。「セサミンE」で知られるサントリーウエルネスはこれまた通販チャネルをゼロから開拓し、売上を850億円まで伸ばしてきました。

 

そんな健康ビジネスは、非常に多岐の業界に分かれますが、健康機器の開発や付随サービスの提供など製造業の動きも無視できません。たとえばオムロンヘルスケアは、機器を開発販売しなからデータ提供などの新しい健康支援サービスを手がけます。体脂肪計で一世を風靡したタニタも、機器プラスでWebを軸にした健康ソリューションを提供します。その他、お腹に張って腹筋を鍛える健康器具も、意外と高額商品ですが人気を博していますね。

 

 

健康ビジネス | アイテック株式会社(ITEC)

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おそらく、誰にとっても関心事である最高のコンテンツ「健康」。これをビジネスとする企業・商品・サービスはすべて健康ビジネスという括りに入ります。しかし、すべてが順風満帆というわけではありません。廉価販売がしにくい商品特性で、かつその宣伝にも根気や忍耐が求められます。そこでは、変動費を主にしたビジネスモデルを描くか、体力を使って中長期の採算計画を描くか、明確な戦略が不可欠です。また、宣伝の合法性に注意したり、目前の顧客のリピート化に全力を尽くしたりするので、決して手離れのいい製品・サービスではありません。また、人を要する店舗サービスでは、とりわけその接客力や専門性に厳しい目が向けられるはずです。中途半端な気持ちの参入でうまくいく業界ではないようです。

 

まぁともかく、彼らが今後の日本を背負っていくわけですから、大いに期待・応援したいものです。