わりと身近にある統計学的な考え方

仕事に役立つ統計学の教え

仕事に役立つ統計学の教え

 

 

世界は「正規分布」でできている。何のことだかサッパリ分かりませんね。正規分布が示すのは、平均値の付近にデータが集積するという傾向のことです。私たちにとって馴染み深い「平均値」は、平均から見てどの位置にいるかを示す指標です。ちなみに、偏差値60以上とは、全体の中で16%の集団の中に入っていることを示します。偏差値70は、同2%。ちなみに、偏差値60から平均値、そして逆方向へ同じだけいくと偏差値40。この範囲(偏差値40~60)に属するデータは全体の7割です。いわゆる「中間層・平均的なデータ」と呼ばれます。これはアンケートの回答を見ると体感しやすいものです。たとえば、「好き嫌い」を尋ねた時、4択にして「どちらかと言えば」を加えます。すると、全体の7割が「どちらかと言えば」好きあるいは嫌いになると言われます。

 

 

 では、偏差値60以上、つまり全体の中で、少し特別な分類は全体の16%でしたね。これをもっと感覚で表現すると、好き・嫌いという大きな括りでは「好き(=嫌いじゃない)」、その中でも「まぁ、好き」になりえる層は三割くらいだとしましょう。50%✕30%=15%、すなわち「偏差値60以上」くらいの層が、あなたのことを気に入る確率だと言われれば、感覚的に許容範囲ではないでしょうか。もし、あなたが顧客を開拓する時も同じです。アポが取れて(50%)、こちらの話に興味をもってもらえる(30%)確率が15%~16%だとしたら、経験的に違和感はありますか。もしもそれほど悪くない提案なら、15%~16%で通りそうなものです。もしもあなたの提案が、ちょっと分かりにくいものである場合、アポも難しい(20%)上に、なかなか納得してもらえない(10%)としたら、最終確率は「2%」ですね。実はこれが「偏差値70以上」という分布のことなのです。

 

実際の営業活動だと、「335」のメカニズムが紹介されています。

  1. 訪問アポを取れる確率は30%
  2. 提案が相手の好感を生む確率も30%
  3. 最後、あらゆる条件を妥結しクロージングに至る確率が50%

 

これは何となく、実体験に近いものがあります。では最終確率は何%でしょうか。計算してみると「4.5%」。実に低い数字です。100件訪問して、5件あるかないかという成約率です。もし1件あたりの成約が30万円であれば、1件あたりの期待値は1.5万円(=30万円✕5%)と表現します。月の売上目標が150万円だとしたら、100件(=150万円目標/1.5万円期待値)を訪問することが行動目標になります。この考え方はそのまま事業評価にも応用できます。

 

たとえば、投資額20億円の事業、その成功・失敗の確率がちょうど半々でした。うまくいけば100億円に化け、失敗すればゼロです。この場合の期待値は50億円、そこから投資額を差し引いて「30億円」の収益になります。さて、もしもテストマーケティング(1億円)をして成功確率を80%にまで上昇できたらどうだろう。その代価は1年の遅れで先行者利益を失い、うまくいっても60億円になるとします。この場合の事業期待値は48億円(=60✕80%)、そこから投資額を差し引き、さらに1年の金利を3%で割り引きます。収益は「27.2億円」です。どちらがいいのかは一概に言えませんが、理論上の「収益」を少々減らしてでも失敗の確率を下げる方が懸命なことだと思います。

 

 

「全国地震動予測地図2017年版」の概要 | 地震本部

https://www.jishin.go.jp/main/herpnews/series/2017/sum/02_02.png

 

「これから地震が来る確率は70%です」と言われても、地震が近々、実際に来るということなのか、来ないかもしれないのか、肌感覚で分からないという人は多いだろう。そもそも「発生確率」という数字は、どのようにして算出されるものなのだろうか。

(実は、非常に簡単である)

ある地域で、過去数百年間、数千年間に地震が起きた回数を調べて、年数で割ってやると、平均的に見て地震が来る間隔が分かる。たとえば、ある地域で1200年間の歴史的な記録が残っていて、そこに6回の地震の記述があるとすると、1200÷6=200で、200年に1回地震が起こるのだろうと考える。ゆえに前の地震から100年の間に次の地震が来る確率は50%となる。

 

統計学が役に立つ、もうひとつの例を挙げましょう。俗的に言えば、統計に騙されないリテラシーを身につけることです。たとえば、「今後数十年以内にM8以上の南海トラフ地震がやってくる確率」は:

  • 今後50年以内に90%以上
  • 今後30年以内に60~70% 
  • 今後20年以内に40~50% 
  • 今後10年以内に20%程度

 

印象としては、ほぼ間違いなく50年以内に大地震が来ると考えてしまいます。30年内だと、生きている間に来る可能性は高いとなるでしょう。10年だと、「ビミョー」とつぶやいてしまいそうです。実は、この確率はまったく意味をなしません。唯一言えることは、南海トラフには間違いなく大地震が定期的に発生するということ(地震が起きないことはほぼありえない)。しかし、地域を細かく区切った統計解析手法になると、意味合いが出てきます。NHKでも放送された尾形名誉教授の研究がそれです。1926年からの数百万にもなる地震データを取得・解析し、全国を10km四方に区切った上で、天気予報のように、地震が起きる確率が刻々と変化する様子を見られるようにしたものです。地震とは、その背後にある物理的メカニズムがあまりにも複雑で理論予測ができません。したがって、実際に起こった現象から確率の変化を常時公開していく構想は、これまでの地震予知とは一線を画するものです。

 

news.mynavi.jp

 

www3.nhk.or.jp

40年近くにわたって、予知を柱の一つに進められてきた国の防災対策。それが大きく転換されることになった。昭和53年、国は「大規模地震対策特別措置法」いわゆる「大震法」を制定。被害が予想される8都県の157市町村を「強化地域」に指定し、観測機器の設置や防災対策に多額の予算が投じられていた。しかし、平成7年に起きた阪神・淡路大震災では、住宅の倒壊によって多くの犠牲者が出てしまった。(つまり地震の余地より)耐震化など被害を軽減するための事前の対策が強化されるようになった。

 

 いち早く地震予知をしようとする体制では間に合いません。そればかりか、二度の大震災できっちりした成果を上げられませんでした。したがって被害を軽減する事前対策に重点を移していくのですが、その際の優先順位を、統計学的な手法でつけられれば、対策にメリハリがつくかもしれません。また、常時「予報」として流すことで、当該地域の住民の警戒心を喚起することもできるはずです。もちろん、その手法には賛否両論あり、日本での実施は見送られたままです。いずれにしても、役に立ててこその統計です。ゆえに、統計に対するリテラシーくらいは身につけておきたいですね。