化粧品をめぐる成分開発と安全性問題
トコトンやさしい化粧品の本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)
- 作者: 福井寛
- 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
- 発売日: 2009/10/01
- メディア: 単行本
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入門の書籍を読むと気付かされることがあります。当たり前に使っていた用語に厳密な定義があることです。化粧品は決して薬ではありません。ただ、薬事法の対象となる「医薬部外品」も含まれます。法律では56の効能が認められ、以下のように分類されています。要は、一般的な化粧の概念、すなわち「メーキャップ」以外の効能・分類があるのです。
日本の化粧品産業は順調に成長し、国内的にも非常に有望な産業ですが、実際の出荷額はもう20年ほど「1.5兆円」前後で足踏みしています。日本の化粧品メーカーは1000社あると言われますが、現実には上位 5社で45%、10社で63%のシェアと圧倒的に寡占化された市場です。この20年、平均単価(単位重量)は下がり続けています。「化粧品」の種類は多岐に渡るので、各分類の状況はマチマチです。他方、輸出については、日本好きの台湾が300億円で成長を続けていますが、近年、香港(800億円)・中国大陸(500億円)がそれを上回って急増しています。この産業の将来性が明るいのはおそらく、次のような理由だと感じます。
- 国内の対象人口が増え続けて、アジアへの輸出も伸び続けている。
- アジア勢からの追随を許さず、日本勢の研究力には一日の長あり。
- 「アンチエージング」という人間にとっての永遠のテーマをもつ。
「アンチエージング」とは、長寿時代にあって、健康的に長生きするための非常に重要な課題です。つまり、内蔵の健康ばかりでなく、見た目の健康さも必要なのです。ここに健康・美容の不可欠な関係性が現れています。皮膚の老化対策とは、紫外線・酸化・乾燥から肌を守り、有用成分を行うこと、血行を良くすることなど。これを化粧品の配合成分で実現するためのものです。たとえば、シワがなぜできるか。乾燥によって皮膚が収縮すると、キメが一定方向に重なります。これがシワです。また、コラーゲンが減って弾力がなくなることでも、深いシワになります。原因が多岐に渡るため、各対処方法でも多くの商品が誕生しそうです。シワのない、若さあふれる肌は、人を明るくさせてくれますね。
アンチエージングと関わりの深いキーワードに、「活性酸素」があります。活性酸素とは、反応性の高い酸素(主にはスーパーオキシドイオン、過酸化水素、ヒドロキシルラジカル及び一重項酸素)のことで、体内に取り込まれた酸素のうち2%が活性化するのだそうです。活性酸素は体に害のある細菌を殺す作用をもつ一方で、疾患にも関係しているとか。また、上述した老化で言えば、紫外線が活性酸素を産出し、皮膚の基底膜を損傷させたり、コラーゲン分子を変性させたり、さらには異常エラスチンを蓄積させたり、ずいぶん悪さをしてくれます。つまり、良くもあり悪くもあり、その扱いをめぐってまだまだ研究開発が進みそうです。
古くて新しいテーマ「美白」も、まだまだ伸びるキーワードです。「色の白いは七難隠す」と言われますが、この美白そのものを効能訴求はできません。表現としてはたとえば「メラニンを抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」効能として制約されます。 そのメラニンを生成させる作用を抑制(活性を不活性に)する方法もひとつですが、さらに上流(紫外線が当たった時の炎症)にさかのぼって対策を打つ方法も登場しています。これは、紫外線によるメラニン生成のメカニズムが明らかになったことで開発されました。いずれにしても紫外線の対策は、それを吸収したり散乱させたりする成分を「UVケア」と称して用いるのが一般的です。いわゆる防御の段階を強化しているわけですが、難しいのは、皮膚に均一になじませること、汗や海水で取れたりしないこと、さらに肌への負担が小さいことなど、多面的な条件が求められます。それゆえに、どこまで完全な対策を打てるかが技術的課題となっています。
美白と言えば、カネボウの「白斑(はくはん)」事件が記憶に新しいですね。2013年7月4日、カネボウが美白化粧品の回収を発表したことで大騒ぎになったものですが、「16万件以上の相談、約2万人の被害者」となって社会問題化しました。これは皮膚の色が一部抜けてしまい、白くなってしまう症状です。色素を作るメラサイトが死んでしまったのだそうです。カネボウのユーザーを襲った原因は、カネボウが自社開発した「ロドデノール」という成分でした。厚生労働省からも医薬部外品として認可がおりていました。被害は実は2011年から増えていたのですが、カネボウの対応は遅れに遅れました。確かにこの手の問題は、使用条件・環境要因、使用者の体質・疾患との組み合わせで起こることも考えられ、原因調査には膨大な時間がかかります。この件ではあらためて、化粧品メーカーの苦労と、ユーザーの健康リスクは、決して小さくないことが指摘され、監督官庁の審査・監視体制にも疑問符がつけられる結果となりました。この業界の落とし穴を痛感させられます。
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最後に、化粧品の安全性について。その歴史は白粉の使用制限法令に遡ります。1900年(明治33年)のことでした。1970年代に入ると、化粧品の皮膚障害が多発し、社会問題となりました。特に「女子顔面黒皮症」事件では、添加物が接触性皮膚炎を引き起こしました。これを受けて厚生省は、アレルギー・接触性皮膚炎・発がん性の可能性がある成分;102種類を「表示指定成分」としました。この規制強化によって、逆に「無添加」が誕生することになります。しかし、無添加が安全の代名詞ではありません。また、植物由来という表現も流行しますが、問題が起こった事例もあります。特に、植物由来成分は防腐剤とともに使われるのが一般的なようですが、防腐剤等は「キャリーオーバー」と言われ、表示しなくてもいい成分です。今日のように次々と新成分が登場する時代では、規制も、情報公開も、その検証もなかなか十分には行われにくいように感じます。