未来の日本を左右する、究極の「水商売」:化粧品。

 

化粧品シリーズを続けていますが、化粧品業界はいつの間にか、未来の日本を担いうる有望産業に変わっていました。今日の日本は、自動車はまだ立派ですが、家電はすでに後退が始まっています。ITは、完全に出遅れたようです。製造業は国内の空洞化が完成段階に入っていて、円安が続いていてもそう簡単には戻ってきてくれないようです。それに比べれば、この化粧品業界は、製造こそ世界に散らばっていますが、その付加価値の多くは、日本に還元されています。研究開発でも、ライバル国の追撃を寄せ付けていません。逆に、アジア諸国の方々が来日までして爆買いしてくれているのは、日本の化粧品です。また、興味深いのは日本の国内市場です。少子化は、この業界にとっても同様に頭痛の種ですが、化粧品人口は伸び続けています。60代以上の女性も顧客層として残り、900万人を越える規模です。また化粧の若年化も進んでいて、その数は200万人。極めつけは、今日の「日本男児」もそのターゲットになっていることです。単純計算では、女性市場と同じくらいありますからね。潜在市場の大きさは膨大です。

 

 

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引用元は、『日経業界地図 2017年版』です。化粧品の国内市場は約1.5兆円。花王が、破産したカネボウを買収し、化粧品業界・トイレタリー業界の相互参入が、今後ますます激しくなりそうです。この業界でも世界の名だたるブランドが日本市場に乗り込んでいますが、日本企業の競争力は非常に高く、がっぷり四つで戦っています。今日、この局面を作り出した間接的な要因は、流通の大変革です。その主役を担ったのは「ドラッグストア」でした。また別途、このテーマで書き起こしますが、ここでは、市場拡大の牽引役を担った大規模チェーン店の登場とでも表現しておきましょう。商品価格が下がり、セルフ式で販売することを前提にした商品が多数誕生しました。それらを一緒に並べ、薬と一緒に、つまり専門人材を置いて販売し始めたわけです。永遠のテーマである健康・美容は、多くの消費者の関心を得て、今日の巨大産業へと成長しました。

 

他方、見逃せないのは、日本企業を強くした要因に外資系ブランドの大成功が挙げられます。三大ブランド(ロレアル、エスティローダ、LVMH)やシャネル、クラランス、シスレー、ラ・ブレーリー。バブル期がひとつの大きな飛躍期となりました。価格戦争の勃発からさらなる高付加価値化へと転じた百貨店と結びついた結果でもあります。特に、伊勢丹新宿と梅田阪急がその中心的存在です。

 

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化粧品は究極の「水商売」と言われます。化粧水のほとんどは「水」で、高級品であるとの様々な暗示を受けて、効果を発揮するものです。「水をいかに高く売るか」に各社の戦略の違いが見てとれます。一般的に、製造原価は単価の2割にすぎず、同じ2割を使って派手な宣伝等を行います。そして卸にも2割を落として(川上6割)、小売のところで人件費や店舗費をまかなうだけの4割を与えます。もちろん、ブランド力が強いところほど、全体の価格支配力を得て、イメージの毀損から守ります。7割を全部を取って、小売に3割くらいでしょうか。逆に、ドラッグストアのようなセルフ式では、川上は「2:2:2」ですが、小売は取り分を減らして、その分を消費者に還元しています。

 

本書には、業界の特徴を示す面白い物語が示されています。やや脚色しますが、ある王国には、化粧品を作るのに適した水の泉がありました。各社はそれを有償で使えるのですが、ただひとつのルール:「この水の正体(泉)を明かしてはいけない」を守らなければなりません。その下で、各社は様々な戦略と価格帯で売上を実現します。そこに後発の会社が現れました。

  1. 後発のため、流通に取り扱ってもらえませんでした。
  2. スーパーやディスカウント店ではそこそこ流れますが、赤字が膨らみます。
  3. 思い切って通販をやりますが、ブランド力がなければ、消費者は買いません。
  4. そこでついに、「あの同じ泉の水」と銘打って割引販売しました。

 

この化粧品は瞬く間に売れだしました。しかし、王国のルールに抵触した後発の会社は、王国を追い出されてしまいます。これがいわゆる業界の不文律です。このたとえ話は、業界の特徴を濃厚に示しています。テレビ広告から雑誌広告、そしてサンプル配布、メールによる各種DM、時代に合わせた様々なプロモーションが繰り出されました。実際には小さな差をいかに大きく見せるかが、各社の競争力を大きく左右します。

 

最後に、資生堂の事例を挙げておきましょう。

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資生堂は創業100年を越える老舗で、かつて乱売合戦が横行した戦後の日本市場を統一した業界リーダーでした。資生堂は二代目・松本昇社長の時代、チェーンストア化に動きます。流通店舗を限定し、彼らに、資生堂すべての商品の取り扱いと一定額の初期購入を要求しました。排他契約はせず、価格維持を求めました。他方、店舗支援メニューは豊富で、店舗が接客に集中できる仕組みづくりを優先させました。当時は化粧品制度の再販制度もあり、資生堂の急成長を支えました。この仕組みはたちまち業界に広がりましたが、資生堂はさらに各地の問屋を傘下に収め、ますます流通支配を強化しました。後に、価格破壊の筆頭・ダイエーが台頭してきましたが、資生堂はうまく立ち回り、化粧品の定価販売を守り抜きました。2000年代に入ると、資生堂はPOSレジを全店に導入。小売との新しい一体化モデルに置き換えました。そして今日では、ネット対応と中国市場深耕という二大テーマに挑戦しています。両者ともに簡単なテーマではありませんが、今後の新しい局面を占う二大戦場だと言えるでしょう。

 

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