表皮0.3mmをめぐる、膨大な機能成分の攻防

化粧品成分表示のかんたん読み方手帳

化粧品成分表示のかんたん読み方手帳

 

 

「化粧品リテラシー」という言葉をご存知でしょうか。ネットで見る膨大な情報は必ずしも正しくありません。特に、危険性を煽る主張がまかり通っています。一部には、化粧品会社の宣伝文句にも、特定の成分(商品)を悪者扱いしている表現が含まれます。その一例が「ノン ~ 」「 ~ フリー」で、~には悪者成分とされるモノが入ります。実際それは往々にして、新商品を販売したいがための紛らわしい表現です。またこのロジックを、私たちの知っているモノに応用すると、滑稽です。たとえば、「塩分摂りすぎは死を招く」と言われても、私たちが塩を恐れることはありませんね。必要不可欠な塩を適正に摂ればいいだけのこと。しかし、化粧品等の未知の成分になると、私たちはついつい恐怖を覚えてしまいます。これがいわゆるリテラシーのない状態です。

 

 

「天然成分」と聞くと、いいモノのように感じませんか。逆に「石油由来」と聞くと、体に悪いと思ってしまいます。しかし、石油は天然物です。確かに、1970年代に登場した石油由来のオイルは、粗悪品も多く含まれていました。そのイメージが今なお、私たちの脳裏にこびりついているのかもしれません。また、「界面活性剤」も印象がよくありませんね。私たちの大好きなマヨネーズは、酢と油から作られていますが、卵黄を界面活性剤として使い、成り立っている商品です。おそらく、食器用洗剤の歴史の中で、肌に良くないというイメージがついてしまったのでしょう。「植物由来」と聞くと安全なイメージがあり、かつて人気のあった馬油(動物性)は影が薄くなってしまいましたが、それは必ずしも正しくないです。アレルギーは人によってまちまちですし、毒性がある植物成分もあるのです。

 

法律上の分類基準は、それなりに役立ちます。さすがに専門家の知見は信用できます。ただし日本には「医薬部外品」という中間分類があります。薬か否かという基準以外に、本分類ができた背景には、医薬品っぽいものを医薬品ほど手間をかけずに作りたいという、メーカー側の思惑がありました。食品で言う「特定保健用食品」のようなものです。しかもメーカーが使う表現には、自社独自基準があります。たとえば「低刺激」「敏感肌用」とあれば、それはあくまでも自社調べです。

 

医薬部外品とは? - 石鹸百科

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化粧品は、「人体に対する作用がおだやかなもの」でなければいけないため、効果効能としてうたってもよい項目が限られています。医薬部外品には、おだやかな薬理作用が認められた成分が配合されており、「有効成分」としてその成分名や効果効能を表示することができます。しかし、両者ともに、劇的な治療効果があるかのような表現は一切使えません。

 

 化粧品の成分表示は、2001年の薬事法改正によって実現しました。配合量の多い順番に記載され、配合量が1%に満たない成分は順不同となっています。化粧品のほとんどの成分は1%以下で効果を発揮しますので、重要成分の表示順序はほぼメーカーの思惑次第(印象のいいものを前に持ってくる)と思っていいでしょう。着色剤は、配合量に関係なく、末尾にまとめています。他方、医薬部外品は、先頭に有効成分を表記するような業界ルールがあるそうです。医薬部外品には、厚生省の細かいルールが決められており、厳しい審査も存在しています。水についてすら、重金属の残留量や「精製水」か否かの記載を求められます。これらを素人が全部覚えるのは厄介なことですね。

 

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全成分表示の抜け道「キャリーオーバー」:

キャリーオーバーとは、『持ちこされた』という意味で、原料の製造の工程において「添加」されたり、「残留物」として残っていたりするものを指します。例えば、「化粧品成分X」の安定のために「防腐剤Y」などの成分を添加して化粧品原料を作れば、厳密には「成分Y」が含まれます。しかし、表示するのは「X」だけで、「Y」を表示する義務はありません。

 

 化粧品のほとんどが、水と油と界面活性剤。この基本の組み合わせに、機能性成分、品質安定・向上成分、香料・着色剤が添加されています。水、すなわち水性成分は、保湿作用の他、肌への浸透を高める役割を担います。そして他の成分(固形)を溶かす溶剤としての働きも重要です。水性には、エタノール(アルコール)が含まれます。他方、油性成分は、肌のバリア機能(水分蒸発)を高めたり、化粧ノリをよくする必須成分です。水の保湿力「モイスチャー効果」に対して、油の保湿力は「エモリエント効果」です。乾燥肌でかさつきがちな人は、油脂の入った化粧品が望ましいそうです。そして界面活性剤は、たとえ同じものでも用途によって、「洗浄剤」「乳化剤」「殺菌剤」「帯電防止剤」と呼ばれます。界面活性剤フリーをうたう化粧品の多くは乳化安定作用のある増粘剤を使っていますが、界面活性剤が特に悪いわけではありません。

 

チャントアクアミスト冬の潤いセット:水と油の「保湿」効果

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欧米の方などは、皮膚は油で柔らかくしますが、湿気が多い気候で角質層が薄い日本人は、水で皮膚を柔らかくすると言います。

 

 

最後に、基本三成分に加えて混ぜられる「機能性成分」にはどういった分類があるか、一覧にしておきましょう。たくさん挙げられますが、大まかには三つ、①光・老化対策、②水分・表皮細胞対策、③抗菌・消炎対策でしょうかほ膨大な具体成分には、毎年、信じられないくらいの開発予算がついて、これら機能成分の研究・開発・生産・マーケティングが行われています。

  • 美白成分:シミ・ソバカスの抑制などメラニン対策。
  • 紫外線防御:紫外線の反射や吸収。
  • 抗シワ:活性酸素の吸着や、「ニールワン」等開発競争が高まる。
  • バリア機能改善:角質層の保湿。
  • ピーリング・角質柔軟:肌にたまった余分な角質の処置。
  • 抗炎症:肌荒れやかゆみの対策。
  • 皮脂抑制:消炎や抗菌などニキビ対策。
  • 収斂・制汗:毛穴を引き締める。
  • 殺菌・消臭:ニオイ吸着や菌の繁殖を抑えたりも。

 

私たちの肌細胞は、皮膚の緻密な構造を約6週間で入替えながら(ターンオーバー)、常に新しい状態を保とうとしています。この表皮はわずか0.3mmの厚さです。その下の真皮のところで毛細血管が張り巡らされていて、体内部での栄養素のやりとりをしています。表層のわずか0.3mmをめぐる技術開発の攻防に、毎年莫大な金額が動いていることを鑑みると、化粧品を含めた「皮膚」経済は、極めて重要なのだと、あらためて実感しますね。