問題を見つけて喜ぶ、これがトヨタのスピード解決術

トヨタ式「スピード問題解決」 (PHPビジネス新書)

トヨタ式「スピード問題解決」 (PHPビジネス新書)

 

 

 同じトヨタ方式でも、偽物と本物とでは大きな差があります。生産ラインにアンドンを構え、「トヨタ風」の品質対策をやっているつもりでしょうが、止める気のないラインは、止まりません。生産計画を狂わせないことが優先されるからです。ラインが止まらないのは良いことではない、そう言い切ったのはトヨタ方式の発案者・大野耐一氏です。彼は、「問題がないのではなく、見えていないだけだ」と言うのです。つまり、ひと一倍早く潜在的な問題を見出し、先手を打つことが競争力の源泉になる。トヨタという会社は、これが原動力です。

 

 

そんな大野氏がいた昭和40年代のトヨタは、一千トンプレス金型の段取替えで最大四時間をかけていました。それを現場の努力で一時間にまで追い込みました。しかし、大野氏はこう言ったのです。「三分間に短縮しろ」と。メンバーは不可能だと思いつつも、解決策を百項目以上積み上げて、なんとこれを実現させてしまいました。問題を迅速に発見する、これがトヨタ方式の根本なのですが、他方、トヨタは安易な問題解決を望みません。必ず、根源的な問題を探し出し、根治を目指します。発見は素早く、解決はしっかり、これがトヨタ式問題解決法です。

 

では、その解決案についてです。個々の問題に対して、膨大な数のアイデアを考えるそうです。また、根治を目指すが万能薬とはしない、これもトヨタの思想です。ジャスト・イン・タイムがいつも有効ではありません。大震災の時、剰余在庫がなくて、生産ラインが干上がってしまいました。時と場合による、柔軟性も大切な要素です。話を戻しますが、解決策には極力お金を使いません。お金があると、知恵を失ってしまうからです。ないないづくしだからこそ、人は知恵を出す。「改善は知恵とお金の総和である」と言ったのは、大野氏のようです。トヨタにて、設備改善より動作改善が重視された理由は、この思想によるものです。

 

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様々な教科書が、トヨタ式の「なぜなぜ5回」を取り上げますが、とても単純な事例ばかりで、トヨタ式分析の実態を曲解しがちです。たとえば、「今朝遅刻したのはなぜ?」という事例は典型例ですが、前日寝るのが遅かったという原因を導くことで根治を目指すというものです。しかし、現実の問題は、こんな簡単な結論には至りません。

  1. 現地・現物・現実を見て、問題を設定します。
  2. その問題が起こる頻度やメカニズムを正確につかみます。
  3. そのメカニズムから、関係する要素をすべて列挙します。
  4. 問題が発生する本当の条件に狭めていき、真因を探ります。
  5. その問題は以前から対策や防衛策がありながら機能しませんでした。
    その阻害メカニズムにまで広げて問題を理解します。

 

もうお分かりだと思いますが、なぜを5回以上繰り返す理由は、問題現象が成立するメカニズムを網羅しながら、「広げていく」プロセスなのです。また、広げつつも、問題の成立条件を特定・限定していくため、これは同時に「絞っていく」プロセスでもあります。飛行高度を上げながら、問題現象を深堀りする作業であるために、一見矛盾しているように思われますが、その実、何ら矛盾していません。なぜなら、問題を深堀りしようとした時、私たち自身が前のめりになってしまうのを、単に自制しているだけだからです。

 

「5なぜ」でひも解く、トヨタ式「要因解析」 — オルタナ: ソーシャル・イノベーション・マガジン!「オルタナ」

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トヨタみずからはいまだに成長を続けています。しかしトヨタカイゼンを導入した会社は、必ずしも成功しているところばかりではありません。その違いは何でしょうか。トヨタ方式の導入に失敗している会社は一つ目、「作業改善」が甘い。言い換えると、現場人材の力を十分に発揮できていないまま、形式的なことに時間を割きすぎているのです。「~方式」と名前をつくモノに固執し、現場が自分で考えなくなります。二つ目、 目標が低すぎる。目標が低いと、従来のやり方を抜本的に変えようとしなくなります。急いでやるとか、無理してやるとか、気合を入れるなどはそもそも改善に値しません。三つ目、定着までいかない。目標を高くして、失敗してもやめないとすれば、おのずと挑戦を繰り返すことになり、再チャレンジが習慣化されてきます。失敗して放棄するを繰り返しているだけでは進歩がありません。

 

よく言われることですが、トヨタ方式とは思想体系であり、仕事に対する態度を指します。ノウハウ集やマニュアルとは異なります。失敗は喜ばれ、同じ失敗は怒られる。このことを肝に銘じておきましょう。