質問力で、事業の企画に関わってみる

コンサルタントの「質問力」 (PHPビジネス新書)

コンサルタントの「質問力」 (PHPビジネス新書)

 

 

一時流行した「質問力」。これこそが、すべての仕事の基本とも言われます。質問力とは鍛えられるものですが、情報を整理し、体系化し、その本質を探求するプロセスです。最後に解を見つけることができたなら、「ニーズがシーズと出会ってウォンツになる」という本書の作者が目指すところとなります。

 

 

さて、上手な質問とはどのようにするのでしょう。現実の事例を使って、架空のストーリーを組み上げてみましょう。先日、開業したばかりの「男女混合カプセルホテル」。次世代型と称される「格好いい」ホテルですが、この機会が挙がったばかりの頃の話を創作してみましょう。会議の席で、ひとりが手を挙げて発言します。そこに私が質問をぶつけるという構図でいきます。

 

男女混合カプセルホテルが渋谷に開業 訪日客に好評? - 日経トレンディネット

http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1008498/031401178/01.jpg

 

「新規参入で、カプセルホテルを作り直しましょう」

なぜ、今さらカプセルなのですか。安いホテルを作りたいのか、カプセルの特殊性に着目されたのか。また作り直すというのは、現在のカプセルのコンセプトを守りながらという意味ですか。

 

「いいえ。今の日本は、インバウンドが活況なのを受けてです。きちんとした都心部のホテルは高価な上になかなか予約がとれません。しかし、カプセル的な発想なら、部屋数が多くなり、価格もこなれてきます。両方成り立つわけです。」

カプセルホテルとは従来、飲み屋街に造られ、終電に乗りそびれた人たちが利用していました。ゆえに都心のど真ん中にあります。だからこそ地代が高く、部屋数を多くしなければなかったのです。荷物の多い旅行者に適していないのでは?

 

「やりようはあります。ひと部屋を、従来のカプセルより少し大きくしてしまえばいいのです。金額も6000円くらい、やや高めに設定してはどうでしょう。」

確かに、供給不足のある現状では、ひとつでもホテルが多くできた方がいいでしょう。そうは言っても、カプセルで6000円とは中途半端でしょう。部屋がやや大きくなっただけで、昔のままのイメージを引きずってしまいませんか。

 

「格好いいホテルを一から作れば、イメージの問題を解決できます。特に女性が泊まれるカプセルがいいですね。」

素晴らしいコンセプトがまとまりそうですね。男女泊まれて、格好よくて、金額は既存ホテルより安く、既存カプセルより高め。とにかく、良い立地に部屋数の多いホテルを作りたいという感じですか。

 

「だいたいは合っていますね。強いて加えるなら、ITを活用することで、スタッフを究極まで減らしたい。そして男女はフロアを分けない。斬新な自由空間にしたいです。」

すごいです。ITは各サービスの利用や決済に使うのですか。男女を分けないなんてのは、かなり大胆です。自由とは、制限が少ない、監視が少ない、手間が少ないという意味ですか。

 

 

 

こんな感じで、延々と会話が続いていきそうです。質問で使われているテクニックは、

  1. 必ず、相手の言葉を受けて、会話を刺激し続けることです。
    敢えて、従来式の平凡な見方をぶつけてみるのもいいでしょう。
  2. 事実を示したり、既存の条件を持ち出したりして、話を整えます。
    一方的な質問攻めにしてしまわないことが大事です。
  3. 褒め言葉や感嘆する表現を示しつつ、主題の全体像を確かめます。
    話を膨らませ、多面的な点を並べると、相手が会話をつなぎやすくなります。

 

こちらの言葉:感想や確認、感嘆や偏見などをはさみつつ、次の質問につなげていきます。こうすれば、単なる言葉のキャッチボールから、それぞれの意思の交わり、感情の共鳴などが産まれてくるかもしれません。会話の醍醐味とは、相手とうまくシンクロすることなのです。その上で、質問にも工夫をこらします。

  • 仮説力、要は大所高所を見ながら、因果関係を紐解くこと。
  • 本質力、要は主題の肝を突くこと。
  • シナリオ力、要は質問にも順序があること。

 

 ひとつひとつの糸の絡みを、順番にほどいていく作業が質問力です。乱暴にはさみを持ち出したりしたら、相手が怒ってしまうかもしれません。だから、仮説を使って、ほどくパターンを一度示してみるのです。「安いホテルを作りたいんですか」という質問が、仮説を立てた上で、ズバリ本質を突いています。つまり、所詮カプセルなんだから、最高品質は作りようがありません。しかし決して、既存のカプセルホテルに価格戦争を仕掛けるのではなく、ムダだらけで客室も少ない普通のホテルに対して、新しいモデルをぶつけたと想定してみた上で、この問いを投げかけました。既存のカプセルよりは高値、普通のホテルよりは安値。この時、新しい切り口であることを感じて、相手の方が盛り上がってくるのかもしれません。

 

www.youtube.com

 

質問するための仮説はどのように作ればいいでしょうか。それには「質問ツール」を使います。本書の著者は、これを蝶の翼のように、左から閉じて右に開くという構図をとらせます。目で見て、耳で聞いて、心で感じたことをまずはずらりと並べてみます。事実から始めるという意味です。これらをどう解釈するか、その共通項を見出し、相手に提示ます。つまり上記の例で言えば、「カプセルホテルは安い」という括りを相手に確認しているのがそれです。その後で、「カプセルホテルのターゲットを変えるのですか」となり、そして、深夜までお酒を飲み歩いた方々ではなく、行動派の旅行者の方々にカプセルを提供する、という新しいコンセプトの論点に導いていくことになります。二人の会話は見事、ボトムアップで本質に近づいていっています。

 

asahi.com(朝日新聞社):就職・転職ニュース

http://www.asakyu.com/ima/img.asp?id=1221

 

 そこから、二人の会話は、新しいホテル像へと移っていきます。質問形式も本質探求型から、本質(=新ホテルのコンセプト)を実現するための具体的なものになります。「男女を分けない」という点では必ずしも意見は一致していないようでしたが、それでも相手を否定するのではなく、質問形式で議論を続けます。これがまさに質問力です。発する言葉は質問によってやわらかくし、相手の言葉を真剣に聞き(=傾聴)、賛否関わりなくそれを受け入れます(=共感)。もし、それが相手を説得したり、諭す場面であれば、これまた質問の力で相手に気付きを与え、こちらの意図する方向へと導いていく。質問力とはかなり奥深いもののようです。上述の、ホテル事業の会話には続きがあります。

 

ところで、今回の新しいカプセルホテルが当て込むのは、インバウンド客との話ですね。日本では中長期で海外客を増やしていく方針ですから比較的安定した潜在客と言えますが、それでもやっぱり旅行業界は不安定ですよね。一本足打法で大丈夫ですか。

「それは気になっていました。だから、日本国内の客も取り込む工夫が必要だと思っています。具体的には旅行者でなく、ビジネス客ですかね。需要が安定していそうですから。」

 

ビジネス客ですか。需要は確かに安定していそうですが、その層に食い込むためには、インバウンド客とは異なるものが必要そうですね。ホテル代は会社の経費だから、できればサラリーマンが自分で負担しているものなんかに着目するのはどうですか。

「サラリーマン・・・たとえばビールが安く飲み放題だとか。ひとりカラオケは?防音設備が厄介ですね。いずれにしても面白そうです。」

 

新規開業ですから、客数をいきなり広げるのは大変ですよね。特に海外客相手では、砂漠に水をまくようなものです。話題作りが大事ですが、同時に連泊客を想定したほうが良くないですか。先ほどの2つのターゲットは、それが可能そうですよ。

「その通りだと思います。インバウンド客がメイン、ビジネス客がその次、両方とも数日いてもらえることを前提に設計したいです。日中は目標とする活動があって、三日くらいなら夜にくつろげる、そんな感じがいいですね。」

 

 

旅も仕事もOKでビールも飲める次世代カプセルホテルが渋谷に - 週刊アスキー

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会話が弾む質問力とは、「鳥の目」「虫の目」を有しながら、抽象的ではあってもすべての細部につながる共通項、いわゆる本質を引っ張り出し、同時に具体的な事例でそれを検証するようなやり取りが必要です。話が逸脱しない範囲で、行ったり来たりする。そんな会話が意図的にできるようになれば、質問シナリオとなります。高度です。