楽天のキャリア事業参入をロジカルに考えてみよう
ロジカル・プレゼンテーション――自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」
- 作者: 高田貴久
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2004/02/01
- メディア: 単行本
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ロジックという言葉がいつからか、ビジネスマンの必須学習科目となったような気がします。それもそのはずですね。ロジックなしにどうやって仕事を進めるのか、逆に不思議です。そうは言っても、昔の会社では「名ばかりの議論」が幅を利かせていました。結論ありきの会議に、職位に応じた発言が続くだけ。たまに空気を読めない発言があると、それなりの処罰・冷遇を受けました。それが今は、隔世の感がありますね。さて、ロジカルな資質が求められているのですが、実際の現場では、「話のかみあわない」ことが多々あります。特に、論点がはずれている場合、会議の目的を達成できません。
そもそも論点とは、まだ確固たる答えが出ていない状態で相手と議論すれば、意思決定に違いが生じる判断項目のことです。たとえば楽天が、社内で「携帯キャリア事業に参入すべき」かを議論しているとしましょう。様々な意見がぶつかる中、論点を合わせなければいけないはずです。ところが、ありえることとして:
- 「今のMNO事業(楽天モバイル)はどうするんだ」
→議論のスタンスがすでに違っている。話すべきはキャリア事業の適否。 - 「キャリアをやらないと楽天経済圏の優位性が出せない」
→なぜキャリア事業なのかという適切な理由の説明になっていない。 - 「設備投資の金額が大きすぎて、会社の屋台骨を揺らがす」
→投資規模だけが判断基準ではない。論拠を広く集めていない。 - 「楽天グループの停滞感を払拭する大胆な一手が必要」
→やることがほぼ結論の場合、相手の次元に合わせた対抗案が必要。
このような論点のズレ方は、立場の違い、論理の飛躍、偏った判断、次元が異なるという四点のいずれかになっていると思われます。このズレを防ぐために、一度、視点を広く高く引き上げてやる必要があります。象徴的に言えば、議論の参加者が前のめりになりすぎているために、話し合っている全体像が見えていないのです。実はこの論点、非常に重要なものです。仮説の立て方によって、論点がどちらに有利になるかも決まります。したがって、議論になる場合、それぞれが論拠をもって仮説を示しながら、当該論点に判断を訴えなければなりません。
楽天が携帯電話事業に「失敗」する理由 「低料金で勝負」の限界が見えている (1/3ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)
楽天のキャリア事業は「失敗する」との声も強い。これを仮説だとして、その根拠はだいたい次の三点です。いずれも事実とは限らず、仮説であることに注意です。
- 計画の設備投資額がまったく足りない。
「(楽天) 7年間の投資額が、ドコモの1年分と同程度」 - 屋内でつながらないなど、通話品質が悪い。
「楽天が取得する計画の周波数帯はプラチナバンドではない」 - どんな新しい付加価値を提供したいのか分からない。
「ドコモ品質に近い楽天モバイルより、価格は高く品質は悪い」
楽天「第4の携帯キャリア」参入へ──大手3社に挑む戦略とその勝算は? | マネセツ
他方、楽天モバイルは格安SIMの領域ではトッププレーヤーですが、携帯電話全体のシェアでは、まったく存在感のない状態です。ただ、楽天モバイルのままであれば、現状を変えようがないとの判断です。大手キャリア三社の価格体系は、格安SIMと一定の差があります。楽天キャリア(仮称)はここに挑むわけで、楽天モバイルより安価にする必要性はありません。むしろ、携帯キャリア事業を赤字にしても、楽天経済圏に抱き合わせることで、アマゾンとの一大決戦に備えようとしているのでしょうか。通信産業は巨大市場(25兆円)で、新参者であるソフトバンクの営業利益はついに1兆円を超えました。そんなソフトバンクに対して、参入当初は否定的な意見が圧倒的に多かったと記憶しています。ソフトバンクは「新参者」イメージをうまく利用して、世の中に革新企業というブランドを定着させました。新鮮な感じが薄れている楽天も、二匹目のドジョウを狙っているのでしょうか。少なくとも、上記三つの課題に対しては、「ハイブリッド接続」という方法で、キャリアでありながらドコモの回線を借りるという奇策を用いる可能性も指摘されています。
非常に貴重なケーススタディとしては今後も注目しておきましょう。正解は分かりませんが、ロジカルに分析していけば、なかなかもって五分五分の判断事例なんだと思えます。