現場の問題解決で、本当に必要なプロセスとは
東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート―50の厳選フレームワークで、どんな難問もスッキリ「地図化」!
- 作者: 東大ケーススタディ研究会
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2013/07/26
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
本書には面白いケースがたくさん紹介されています。たとえば、今、日本では将棋がブームですが、さてこの日本に「チェス人口を増やすためには」という課題を有した場合、何をすればいいでしょう。おそらくは、若年層(学校在学者)への浸透やマンガなどでブームを起こすなど、将棋や碁にも使える手段が誰にでも思いつくはずです。しかしチェスは、日本社会にまったく根を下ろしていません。もし、チェスに詰将棋のような部分的なゲームがあった場合、それを利用しながら、飲み屋で楽しむオトナのゲームにできればいいですね。
次に、「東京(都心部)のカラスを減らすためには」という問いです。自治体は現実に対策を打っています。ゴミが散らばらないような対策、そして捕獲、さらには巣の撤去という迅速な打ち手が図られていました。こういう課題はカラスだからまだいいですが、野良猫や野良犬になると様相が変わりますね。人の好き嫌いが反映されてきます。さてこの問題の本質ですが、どれだけ経営資源(対策予算)をこの問題に集中させるかにかかっています。本書には記載されていませんが、予算案の規模と優先順位、効率的な対策案の掘り起こし、さらに抜本的対策への集中投下など、これらをまとめあげることこそ、問題解決の本質にあたる部分でしょう。
最後のケースですが、「スキー場の(年間のべ)来場者を増やすには」という相談。長野県のS高原だそうです。リピーター率はすでに高く(他より高い30%の水準)、低価格にて若年層の人気を得ているとか。つまり学生が多く、また卒業してしばらくは友人たちと来てくれています。中上級者のレベルが多いようです。単純に考えれば、初心者とか、家族連れを開拓するのが、目標になりそうです。また昨今では、多くの外国人が都心を離れて、日本の自然にアクセスするようになりました。この追い風を取り込むのもいいかもしれません。ただし、ターゲットの変更には、思った以上の費用と手間がかかることに注意を払う必要があります。初心者には手厚いサービスを提供し、外国人には(リピートを期待しづらいため)感動してもらって口コミを増やす工夫等が不可欠でしょう。いずれにしても目標ターゲットごとの打ち手を、実行性と費用・手間、そして予測効果の観点で評価します。また既存客とのシナジーまたは悪影響の有無を考慮しておくべきでしょう。
この三つの事例では、問題解決の手法における共通点を見出すことができます。「問題を額面通りにとらえ、単純な打ち手を考える」ことはご法度です。いずれもひと呼吸置いて考えを深めなければなりません。
- 「そもそも」何が問題の本質なのか。
現状のボトルネックを正しくつかみます。 - 問題を「いろいろ」な角度から眺めておきましょう。
問題を俯瞰し、各関係者の立場も確認します。 - 打ち手の費用対効果を「しっかり」評価・比較します。
希望的観測ではなく、精度を高めた数字で算出します。
”超”分析:問題解決力を高める技法:① - A.T. Kearney | Japan
資金的な費用、人の投入量や厄介さ、要する時間、起きるかもしれない事態、失敗する確率など、ここの計算をしっかり立ておかなければ、継続調査や改善検討などもできません。仮説で構わないので、数字で表現する。不明な点は、調べるなり、小範囲で試してみるなりすればいいでしょう。本書は残念ながら、思考訓練の域を出ず、ここまで詳細に記載されていませんが、本当の問題解決とは、「そもそも」「いろいろ」「しっかり」を現場にて詳細に把握していくステップです。機会があれば、ここについてもその詳細を記載したいと思います。