時計はなぜ時間を伝えられるのか(文字盤や針)【連載】
第6回:
今日の私たちは、実用的に、日時計や砂時計を使いません。それはなぜでしょうか。最大の理由は不便で見にくいからです。日時計の影は、12時間(=720分)で半周します。今日の時計の目盛りが30ヶ所(半周、一周は60目盛り)ですから、同様の目盛りを刻んだとして一目盛りが24分(=720÷30)に当たります。この目盛りをさらに細かくすると、視認するのすら難しくなります。また、砂時計では数分単位で砂を落としきりますので、それを反転させて連続的に動かすのは少々面倒です。いずれにしても、時計の精度とは、それを適切に表示できる仕組みがあってこそ意味をもちます。
序文
時計と時間についてのお話:連載にあたっての序文 - 夜明け前の…
第1回
腕時計は、「やっぱりスイス」なのか【連載】 - 夜明け前の…
(略)
第4回
時計はなぜ動くのか、この問いに答えられますか【連載】 - 夜明け前の…
第5回
時計はなぜ正確なのか(調速機・脱進機の役割)【連載】 - 夜明け前の…
さて、日時計そのものは不便ですが、日時計を基礎にした時刻表示方法は非常に優れています。時間の経過度合いがパッと見て分かるからです。そのインターフェイスは、機械式時計が作られ始めた時代、再び採用されていきます。そのとき合わせて考案されてきたのが、文字盤と、周回する針という組み合わせでした。しかも、針は当初の一本から、徐々に増えていきます。たとえば、時刻精度が向上するとともに、まずは分針が加わり、やがて秒針も使われるようになりました。諸説はありますが、16~18世紀にかけてのことだと言われています。やがて、人々に見せる針は、すべて同じ文字盤状に集められ、時計としての視認性が意識されるようになります。そして、複雑な歯車は、すべて文字盤の背後で動くようになりました。
機械式時計の初期には、文字盤がなかった。今でもまだ「現役」という上掲時計も、時刻を測り、音で知らせるという仕組みだったらしい。ここから、針で表示する、そしてインデックス(文字盤)を加えるというには、さらなる改良・発明が必要になっていたのだ。
このように、時計とは、時刻を分かりやすく見せてこその道具ですが、同時に、美的センスを表現するアイテムにも変わっていきます。特に、人が身に付けられるよう(=装身具)になった懐中時計の登場以後、時刻を表示する文字盤は、各時計の個性を表現する最も重要な部品となりました。今日の時計では、針の動きと、文字盤の材質や色・絵柄の組み合わせによって、様々なデザインを実現させています。装身具については、後段の歴史を紹介するところで詳しく触れましょう。
見せることを意識した時計に進化するには、女性が身に付ける必要があった。小型化し、携帯可能な大きさになったとき、女性が初めて時計に興味をもつ。そして装身具とする。だから、もっと綺麗な時計を求められるようになった。
クロックでも「見た目」重視の動きが始まっていた。それは、多くのセレブ家庭に時計が普及し始めたことと関係する。また、中国の皇帝向けに輸出していたクロックでは、豪華絢爛なデザインが採用された。
ちなみに、「針の動き」とは色々ありますが、1分・1時間・12時間・24時間で周回する針はそれぞれ、秒針・分針・時針・24時間針と呼ばれます。その他、1週間・1ヶ月・1年で周回する針もあります。さらに、針が刺さっている軸に、円盤状のディスクを置き換えることも可能です。このディスクで示せるものとして、曜日や日付、その他月相(ムーンフェイズ)などの絵柄があります。このように、機能が多様になるにしたがって、時計の魅力が増していったのは言うまでもありません。
次回